必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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(どうしたものかな……)
 年齢だけを見れば雪也は充分に大人であるが、ずっと流されるまま、心も意志も持たず外の世界を知ることも無い状態で生きてきたその人生に、生きるうえでの答えとなる経験や知識などはさほど無い。どこで間違ったのかさえ雪也にはわからないが、現状を見るにどこかで間違っていて、未だ解決策も教訓となるものも浮かんでは来ない。
 小さく息をついた時、強い風が吹いて籠から薬草が飛ばされないよう手で押さえる。そして、静かに後ろを振り向いた。
「いらっしゃい、蒼」
 いつも通りニコニコとした笑みを浮かべ、蒼が手を振っている。特に何も持っていないことから、先に庵の方へ行って、わざわざ雪也の元へ来たのだろう。その予想通り、彼は笑みを浮かべながら近づいてくる。
「お邪魔してるよ~。うちの親父が雪ちゃんにお願いがあるらしくてね~」
 薬のことで、と蒼はペラペラと話し始めるが、それはつい昨日に父親本人から聞いていた内容と同じものだ。それは蒼もわかっているだろうに、彼は今初めて言いましたとばかりに話す。そしてゆっくりと雪也の側にしゃがみ込んだ。
「そんなわけだから、今度店に寄ってくれる~? たぶん話自体はすぐ終わると思うから」
 そう手短に話して、雪也がわかったと応えれば、蒼は無言のままにガラリと雰囲気を変えた。
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