必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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 安らいで、楽に息をつける場所だった庵が、近頃はドタバタと慌ただしく、悲鳴や泣き声、怒号が響き渡っている。薬を求める客の大半は雪也が自ら彼らの家へ渡しに行くので減ったりはしないが、それでもどこか庵は近づきがたい場所になってしまった。時折来ては夕飯を共にする蒼や湊も少し居心地悪そうにしており、蒼は笑顔の裏で何かを言いたそうにしていることも、雪也は気づいている。
 雪也とて今の状態が良いものだとは思っていない。周や由弦のためにも、早く元の庵に戻したいと思っているのだが、治療しようと断ろうと、面倒ごとや自らの懐が痛むことを厭う町人たちは怪我人が倒れていると雪也の元へ運び、関わるのはごめんとばかりにサッサと出ていってしまう。
 薬も食材も、決して無限ではない。雪也も必死になって稼ぐが、余裕が出てくるどころか、どんどんと厳しくなっていた。周や由弦も雪也を心配し、理不尽に責め立てる怒号や泣き声が響き渡る日々に居心地悪そうにしており、それが何よりも雪也に罪悪感を抱かせる。しかし焦り、どうにかしようと思っても、解決策が見つけられない。何度か怪我人を断ったこともあるが、そうすれば庵の前に無言で怪我人を放置され、彼らが尊皇を志すものであれば浩二郎が雪也に保護を頼み込み、最終的には「国の未来を担う若者を見捨てるのか」と責め立てられることも多かった。
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