必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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「口惜しいのぉ……」
 悔しい思いは今までに数えきれないほどあったけれど、今この時ほど己が定めを恨んだことは無い。
 なすべきことがあった。
 成したいことがあった。
 共に歩みたい人と、
 見たい未来があった。
 なのにどうして、この身体はもう僅かも動かない。横たわったまま、立ち上がることさえできないのか。
 求めるように、足掻くように、茂秋は手を伸ばす。
「未来を――」
 この混沌とした今の先にあるものを、望んだ光景を、願った未来を
「そなたらに、託そう」
 滅びゆく衛府の行く末を、大切な、姫宮様と一目見ることも叶わなかった我が子を。
 どうか――。

 パタンと、小さな音をたてて腕が力なく落ちる。そして茂秋の意識は深い深い闇に呑まれていった。


 すすり泣く声が響く中、視線の先で静かに茂秋が横たわっていた。上様、と呼び掛けても、もう何も返してはくれない。静かに、ただ静かに眠るだけだ。もはや、何に縋ったとて現実は変わらないと思い知らされる。
 一歩、一歩と弥生は茂秋に近づいた。弱さを殺し、叫びを呑みこみ、彼が望み続けた〝弥生〟であるために、凛と顔を上げる。
 ザッと裾を捌き、膝をつく。後ろに従っていた優と紫呉も同じように膝をついた。
 横たわる主を前に手をつき、深々と頭を垂れる。
「おさらばに、ございます」
 それが若すぎる君主におくる、最後の言葉だった。

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