必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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「……いつか、そなたは言ったな。悲惨が、消えた世界を、願うと」
 その願いを、夢を、庵にいる彼らに託しているのだと。
「その世界を、儂が、作りたかったものよ……」
 その結果が、武力を持って治めてきた衛府の終焉であったとしても、きっと茂秋は受け入れることができただろう。民が安寧を享受し、明日を恐れずに生きれるのならば、その為に衛府が終わりを迎えねばならないのなら、それは意味のある終わりだ。できることならば、茂秋の生涯をかけて、それを実現してみせたかった。
 未来を、安寧を、茂秋の手から、民へ。
 けれど、そんな願いとは裏腹に茂秋の身体は徐々に冥府へと向かっている。もはや、止めることはできない。
 混沌と争い、刃と錆びた鉄の臭いの只中に、沈みゆく衛府をおいて茂秋は逝かねばならない。
「上様……」
「そなたが、願いを託した者達とやら――」
 庵に住む、辛酸を舐めつくし、しかし前へ進もうとする希望。
「会って、みたかったものよ……」
 もう、それは叶わないけれど。
「会えますよ。城にお戻りになれば、いつでも会えます」
 そんな、誰もがわかる優しい嘘を聞いて、茂秋はクツクツと笑った。
「やはり……、そなたは、いつの間にか、ほら吹きになった」
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