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 紫呉が雪也に刀の手ほどきをしたが、一人で周と由弦とサクラを守りながら戦うのは難しい。由弦にも槍を教えているようだが、まだ実践で使えるほどではないなら、彼も守られる側だ。男一人でも危険だというのに、仲間を呼ばれ囲まれては、もはや勝機などない。
「本当は紫呉を行かせれば良いのだが、今は上様の周りを手薄にするわけにはいかない」
 それに、紫呉は優と同じようにずっと弥生の側にいたのだ。尊皇のためならば戦をも辞さないという者達が近臣の、それも将軍に近しい春風家を見逃すとは思えず、今回男が庵にいることが偶然なのか意図的なのかわらないが、もしも偶然であったのなら、万が一 紫呉の姿を見られた時に弥生と雪也達に関りがあると確信を持たせてしまう。知られてしまうのは庵に居る以上時間の問題かもしれないが、弥生が武衛へ戻るまでは避けたい。
「もし……」
 静かに、優は弥生を見つめる。
「もし、僕たちが江戸に戻る前に牙が向けられたら?」
 優の目には見えている。弥生が見る、同じ未来が。
「その時は……雪也達を庵から連れ出せ。そこまでいけば既に我々との関係は知られているだろうからな、春風の屋敷で守るように。父上にも、私がそう言っていたと伝えてくれ」
 そうはならず、弥生が帰るまでに男が庵から離れてくれれば良いのだが。そう胸の内で呟きながら、顔を上げる。その時、微かに近づいてくる足音が聞こえた。
「春風様! 上様がお呼びです。お早くお越しください!」
 さぁ、今から長い、長い日々が始まる――。

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