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「お父上からだよ」
武衛に留まった父とは定期的に連絡を取り合っている。今回もそれだろうと折りたたまれた紙片を開けば、中からさらに小さな紙片が零れ落ちた。それを拾って視線を向ければ、父の筆跡ではなく雪也の筆跡で文字がつづられている。いつでも、どんな内容でも文を送って来て良いと言っているのだが、雪也が弥生に文を書くことは滅多になく、その数少ないすべてが何か弥生や衛府にとってよからぬ噂であったり、大事になりそうなことへの報告であった。そんな雪也からの文に知らず眉をひそめる。小さな紙片に視線を滑らせた。
「……ついに上様のお膝元でも、か」
弥生や衛府にとって良くないであろう男が療養のため庵に留まっている。今は庵に来られませんように、との簡潔な文。その中で殊更小さく書かれた〝尊皇〟という言葉が弥生の胸をざわつかせた。
「時期が悪いな。憂慮すべきことなのだろうが、今はそれどころではない。いたずらに混乱を招く」
小さく息をつき、父からの報告も目を通して立ち上がると、弥生は紙片のすべてを明り取りの火で燃やした。焦げた臭いが僅かに漂う。燃え尽きて跡形もなくなったそれに瞼を閉ざしながら、走り回る足音に耳をそばだてた。
武衛に留まった父とは定期的に連絡を取り合っている。今回もそれだろうと折りたたまれた紙片を開けば、中からさらに小さな紙片が零れ落ちた。それを拾って視線を向ければ、父の筆跡ではなく雪也の筆跡で文字がつづられている。いつでも、どんな内容でも文を送って来て良いと言っているのだが、雪也が弥生に文を書くことは滅多になく、その数少ないすべてが何か弥生や衛府にとってよからぬ噂であったり、大事になりそうなことへの報告であった。そんな雪也からの文に知らず眉をひそめる。小さな紙片に視線を滑らせた。
「……ついに上様のお膝元でも、か」
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小さく息をつき、父からの報告も目を通して立ち上がると、弥生は紙片のすべてを明り取りの火で燃やした。焦げた臭いが僅かに漂う。燃え尽きて跡形もなくなったそれに瞼を閉ざしながら、走り回る足音に耳をそばだてた。
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