必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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 いらっしゃ~い、とやって来た婦人にいつものにこやかな笑みを見せ、蒼は接客に戻る。流石に第三者がいる場で話の続きをしようとは思わない湊は、蒼の言葉をグルグルと反復しながら玉ねぎを籠に詰める。しばらくして婦人が買い物を終えて帰ると、湊は無言で蒼に視線を向けた。片手を軽く上げて見送っていた蒼はその視線に気づき、小さく息をつきながらヒョイと肩を竦める。
「なんで雪ちゃんが馬鹿なのかって、聞きたいんでしょ? 確かに、湊からしたら僕が一方的に罵倒しているようにしか聞こえないよね。ま、それも否定しないけど」
 誰が見ても蒼は雪也の近しい友であるのに、その彼から〝馬鹿〟という言葉が出てきて驚かないなどということはない。まるで今まで猫を被って雪也に接してきたのだと言わんばかりの言い草であるが、今まで雪也の前で見せてきた蒼の姿も偽りなどと思えなくて、湊は見透かそうとするかのように、わずかに目を細める。それに気づきながらも、蒼は笑みを浮かべたまま答えを紡いだ。
「さっき、周が告白したら雪ちゃんは無下にしないって、湊は言ったでしょ? 確かに、雪ちゃんは人の心を踏みにじるようなことはしない――自分に向けられた好意以外はね」
 もしも周が決意して雪也に想いを告げたとて、結果は見えている。
「雪ちゃんを一番嫌ってるのはね、雪ちゃん自身なんだよ」
 あぁ、と湊は瞼を閉じる。それはどこかで湊も感じていたことだ。
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