必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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「さぁ、お粥ができましたよ。起き上がれますか? 少しでも良いから食べてください」
 ボンヤリと思考の海に揺蕩っていれば、雪也の声が聞こえて意識がそちらに向かう。耳の奥で聞こえていた声もいつの間にか消え、雪也に視線を向ければ、お粥の乗った盆を持つ雪也の袖を周が掴んでいた。
 先ほどは人質にしようと必死であまりよく見ていなかった、その子供。帰った瞬間に眠っていたはずの男が自分に襲い掛かってきたのだから当たり前であるが、周は警戒した様子を隠そうともせず、雪也の袖を掴みながら男をジッと睨みつけてくる。その姿が一瞬、おいてきてしまった娘に重なって、男はそっと視線を逸らせると無言で粥を受け取り、口に運ぶ。
 男に気を使ったのだろう、粥というよりは重湯に近いそれは、とき玉子が入れられただけの簡単なものであるのに、懐かしく穏やかな味が口内に広がった。途端に目頭が熱くなるが、男は頬の内側を噛むことで耐える。
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