必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

文字の大きさ
上 下
346 / 714

345

しおりを挟む
「とりあえず、大人しく横になっていてください」
 男に着物を着せ、雪也は横になるよう促す。先程の反撃がよほど恐ろしかったのか大人しく横たわった男をチラと見て、雪也は立ち上がり周の方へ向かった。
 周を人質にして利用しようとしていたことを未だ警戒しているのか、雪也は周から離れようとしない。それも当然のことかと小さく息をついた時、男はチラと着物を見てわずかに目を見開いた。
 着物は元々男が纏っていたものだった。男は国の未来を夢見て家を出てきてから色々と無茶をしてきたこともあって着物は随分と汚れ、ほつれや穴も多々空いていた。繕いものはすべて母や妻に任せていた男はなんとか針と糸で直したりしていたが不格好そのもので、すぐにまたほつれたり穴が空いてしまっていた。それに、これほど出血する怪我を負ったのだ。元々ボロボロだった着物は見るも無残な姿になっていただろう。だというのに、男が今纏っている着物は綺麗に洗われており、穴も切れていた部分も男のものとは比べ物にならないほど丁寧に繕われていた。
 同じものであるはずなのに、こんなにも綺麗に整えられた着物を着たのはいつぶりだろうか。最後に温かで柔らかな布団で、足を伸ばして横たわったのは、もう随分と昔のことだった。それがなぜか男の胸をざわつかせる。
 耳の奥で優しく響く声に、なぜか視界が霞む。それを振り切って出てきたのは、己であるのに。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【旧作】美貌の冒険者は、憧れの騎士の側にいたい

市川パナ
BL
優美な憧れの騎士のようになりたい。けれどいつも魔法が暴走してしまう。 魔法を制御する銀のペンダントを着けてもらったけれど、それでもコントロールできない。 そんな日々の中、勇者と名乗る少年が現れて――。 不器用な美貌の冒険者と、麗しい騎士から始まるお話。 旧タイトル「銀色ペンダントを離さない」です。 第3話から急展開していきます。

その瞳の先

sherry
BL
「お前だから守ってきたけど、もういらないね」 転校生が来てからすべてが変わる 影日向で支えてきた親衛隊長の物語 初投稿です。 お手柔らかに(笑)

今世では誰かに手を取って貰いたい

朝山みどり
BL
ノエル・レイフォードは魔力がないと言うことで、家族や使用人から蔑まれて暮らしていた。 ある日、妹のプリシラに突き飛ばされて、頭を打ち前世のことを思い出し、魔法を使えるようになった。 ただ、戦争の英雄だった前世とは持っている魔法が違っていた。 そんなある日、喧嘩した国同士で、結婚式をあげるように帝国の王妃が命令をだした。 選ばれたノエルは敵国へ旅立った。そこで待っていた男とその日のうちに婚姻した。思いがけず男は優しかった。 だが、男は翌朝、隣国との国境紛争を解決しようと家を出た。 男がいなくなった途端、ノエルは冷遇された。覚悟していたノエルは耐えられたが、とんでもないことを知らされて逃げ出した。

ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。

水鳴諒
BL
 目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)

楽な片恋

藍川 東
BL
 蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。  ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。  それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……  早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。  ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。  平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。  高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。  優一朗のひとことさえなければ…………

案外、悪役ポジも悪くない…かもです?

彩ノ華
BL
BLゲームの悪役として転生した僕はBADエンドを回避しようと日々励んでいます、、 たけど…思いのほか全然上手くいきません! ていうか主人公も攻略対象者たちも僕に甘すぎません? 案外、悪役ポジも悪くない…かもです? ※ゆるゆる更新 ※素人なので文章おかしいです!

騎士団で一目惚れをした話

菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公 憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。

みどりとあおとあお

うりぼう
BL
明るく元気な双子の弟とは真逆の性格の兄、碧。 ある日、とある男に付き合ってくれないかと言われる。 モテる弟の身代わりだと思っていたけれど、いつからか惹かれてしまっていた。 そんな碧の物語です。 短編。

処理中です...