必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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「担ぎ込まれた、明らかに重症の者を放り出す勇気などないからです。助けられるかはわかりませんが、最善は尽くします。そこに理由を求められても、自分がそうでなければ嫌だからとしかお答えはできませんが。それとも――放り出してほしかったのですか?」
 男のためだと、雪也は言わなかった。すべては自分が納得するためだと。これが演技でないのならば、とんだ善人だろう――馬鹿で愚かなだけの善人だ。
「お前が何者かわからない今、例え善意で助けてくれたのだとしても礼は言わんぞ」
「礼はいりませんよ。そんなものが欲しくて治療したわけではありませんから」
 苛立ちを見せることも迷うこともなく言う雪也は、壁にズラリと並んだ引き出しのひとつから薬包を取り出すと、水の入った湯のみと一緒に男の枕元へ置いた。
「鎮痛剤です。これで熱も少しは下がると思います。飲む飲まないはお任せしますよ」
 薬を差し出すが、強制はしない。その様子に男は目を細めるが、雪也は気づいてすらいないとばかりに立ち上がり、薬研のある場所へと足を向けた。
 雪也をわかりやすいほどに警戒している男に、彼は躊躇いなく背中を向ける。着流しの上から羽織を着たその背中は随分と隙だらけだ。
 今なら――。
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