必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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「周、尊皇って、なんだ?」
 無言で手を動かしている雪也を手伝いながら首を傾げる由弦に、周もコテンと首を傾げる。わからないと無言で訴える周にそれ以上を聞くことも無く、少しの間無言が続いた。
 キュッと強めに包帯を巻いて、雪也はいつの間にか詰めていた息を吐きだした。額に浮かんだ汗を腕で拭い、周が差し出す桶でチャプンと手を清める。すぐに赤くなる水に、小さくため息をついた。
「一応、やるだけはやったけど。後は彼の体力次第だね」
 傷に障らないよう、布団を腰くらいまで被せて、雪也は立ち上がる。意識のない人間を治療するのは存外難しく、気づけば着物にもベッタリと赤いものがついていた。早く洗わなければこれも駄目になってしまう。
 新しい着物を出して衝立の奥に向かい、シュルリと帯を解く。新しい着物の袖に腕を通しながら、雪也は振り返った。
「とりあえず洗濯してくるから、二人はいつも通りに過ごしていて。後は彼が目を覚ますのを待つしかないから」
 本来ならばすぐに医者に連れて行って雪也の手から離す方が良いのだろうが、医者も面倒ごとは嫌うのか、この手の患者は診てもらうことができない。それがわかっているから町民もわざわざ少し離れている庵に引きずってでも連れてくるのだろう。今まで幾人か彼のように訳ありの武人を手当てしたが、彼らは皆傷が良くなるとすぐに出ていった。彼も早く目覚めてくれれば良いのだが、と小さく息をついて、雪也は着物を掴むと男の分も含めて洗濯するべく表へと向かった。
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