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「とりあえず暴れられても困るし、刀だけは少し離しておこうか」
 目が覚めた瞬間に錯乱して刀を振り回されては危険だ。治療の前に雪也は男の腰から刀を鞘ごと抜き取って、すぐには手の届かない場所に立てかける。そして男の帯を外して前を完全に開いた。
「やっぱり、切られてるな……。あんまり、医者並みのことを期待されても困るんだけれど」
 一応手当や治療方法も優から手ほどきを受けているとはいえ、雪也が生業としているのは薬を煎じることだ。刀傷の治療は専門外ともいえる。だが、肉屋の主人がすぐに離れたのを見てもわかるように、どう考えても彼は訳ありだ。このまま放りだせば、今度は庵の前で野垂れ死ぬことだろう。
「最近、こういうの多くないか? 今まで刀で切られる怪我なんて滅多になかったのに」
 包帯と布を用意しながら由弦が眉根を寄せる。確かに、ここ最近はこうして雪也の元へ運び込まれてくる者が多くなった。いつもであれば、それでも腹痛や足を捻挫した等であったのだが、ここ最近は目の前の彼のように刀傷――それも命にかかわるようなものばかりだ。
「〝尊皇〟って、よく聞く」
 ポツリと零された周の言葉に、雪也の手がピクリと跳ねる。周は食材を買いに行くことが多い。その場で得ることの出来る情報は広大で正確だ。商いをしている者や主婦の情報網を侮ってはならない。
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