316 / 714
315
しおりを挟む
新しい着物が必要か必要じゃないかと問われれば、今回の場合は必要ではないだろう。ましてほぼ関係のない兵衛が、彼らの大切な商品である着物を無償で雪也に渡す必要はない。わかっていて、兵衛や彼の父は雪也にこの着物を、と持ってきたのだ。傷ついたであろう、その心に僅かでも温もりを与えたくて。
「雪也さんには恩がある。あの医者も薬屋も大嫌いな父の苦しみを救ってくれたという恩が」
「その分、銭を貰ってるぞ?」
それが雪也の商売なのだから。そう言ってますます首を傾げる由弦に、兵衛はわずかも表情を変えることなく頷いた。
「勿論、我々と雪也さんは客と薬売りという関係だ。薬を貰う代わりに銭を渡している。だが、それはそれ、これはこれだ。雪也さんが父に向けてくれた優しさに、俺たちは感謝しているんだ。その恩に報いるのが商売人というもの」
言って、兵衛はチラと庵の方へ視線を向け、ゆっくりと瞬きをした。そして再び由弦に視線を向ける。
「今は、会わない方が良いだろうな。俺にはこれ以上のことをして差し上げることはできないが、君達なら傍にいるだけでも彼の力となるだろう。俺に構わず、中に入ってくれ。もし何かあれば、出来るかぎり力になろう」
由弦に呉服問屋の場所を簡潔に伝えて、兵衛は踵を返す。その大きな背中を由弦はポカンとしながら見つめていた。
「雪也さんには恩がある。あの医者も薬屋も大嫌いな父の苦しみを救ってくれたという恩が」
「その分、銭を貰ってるぞ?」
それが雪也の商売なのだから。そう言ってますます首を傾げる由弦に、兵衛はわずかも表情を変えることなく頷いた。
「勿論、我々と雪也さんは客と薬売りという関係だ。薬を貰う代わりに銭を渡している。だが、それはそれ、これはこれだ。雪也さんが父に向けてくれた優しさに、俺たちは感謝しているんだ。その恩に報いるのが商売人というもの」
言って、兵衛はチラと庵の方へ視線を向け、ゆっくりと瞬きをした。そして再び由弦に視線を向ける。
「今は、会わない方が良いだろうな。俺にはこれ以上のことをして差し上げることはできないが、君達なら傍にいるだけでも彼の力となるだろう。俺に構わず、中に入ってくれ。もし何かあれば、出来るかぎり力になろう」
由弦に呉服問屋の場所を簡潔に伝えて、兵衛は踵を返す。その大きな背中を由弦はポカンとしながら見つめていた。
1
お気に入りに追加
112
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【旧作】美貌の冒険者は、憧れの騎士の側にいたい
市川パナ
BL
優美な憧れの騎士のようになりたい。けれどいつも魔法が暴走してしまう。
魔法を制御する銀のペンダントを着けてもらったけれど、それでもコントロールできない。
そんな日々の中、勇者と名乗る少年が現れて――。
不器用な美貌の冒険者と、麗しい騎士から始まるお話。
旧タイトル「銀色ペンダントを離さない」です。
第3話から急展開していきます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
今世では誰かに手を取って貰いたい
朝山みどり
BL
ノエル・レイフォードは魔力がないと言うことで、家族や使用人から蔑まれて暮らしていた。
ある日、妹のプリシラに突き飛ばされて、頭を打ち前世のことを思い出し、魔法を使えるようになった。
ただ、戦争の英雄だった前世とは持っている魔法が違っていた。
そんなある日、喧嘩した国同士で、結婚式をあげるように帝国の王妃が命令をだした。
選ばれたノエルは敵国へ旅立った。そこで待っていた男とその日のうちに婚姻した。思いがけず男は優しかった。
だが、男は翌朝、隣国との国境紛争を解決しようと家を出た。
男がいなくなった途端、ノエルは冷遇された。覚悟していたノエルは耐えられたが、とんでもないことを知らされて逃げ出した。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。
水鳴諒
BL
目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
案外、悪役ポジも悪くない…かもです?
彩ノ華
BL
BLゲームの悪役として転生した僕はBADエンドを回避しようと日々励んでいます、、
たけど…思いのほか全然上手くいきません!
ていうか主人公も攻略対象者たちも僕に甘すぎません?
案外、悪役ポジも悪くない…かもです?
※ゆるゆる更新
※素人なので文章おかしいです!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
楽な片恋
藍川 東
BL
蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。
ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。
それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……
早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。
ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。
平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。
高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。
優一朗のひとことさえなければ…………
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
騎士団で一目惚れをした話
菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公
憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
どうやら手懐けてしまったようだ...さて、どうしよう。
彩ノ華
BL
ある日BLゲームの中に転生した俺は義弟と主人公(ヒロイン)をくっつけようと決意する。
だが、義弟からも主人公からも…ましてや攻略対象者たちからも気に入れられる始末…。
どうやら手懐けてしまったようだ…さて、どうしよう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる