必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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「……くれるの?」
 いきなり無言で差し出されたそれに驚きながら、雪也は小首をかしげる。雪也の言葉にひとつ頷いた周を見て、微かに唇が震えた。
「……ありが、とう」
 努めていつも通りに零された、その言葉。しかしほんの少し、声が掠れている。静かに、大きく胸を上下させて深呼吸した雪也は周の手からおにぎりを受け取り、それに口をつけた。
 程よく塩のきいたおにぎりはよく食べているものであるはずなのに、ひどく温かい。どこか甘く感じるそれが口内を満たした時、どう名付けたら良いかわからない感情が胸の奥底から沸き上がった。気を抜けばボロボロとみっともなく泣いてしまいそうで、咀嚼するふりをして唇を噛む。
〝ただ必死に生きた。それだけだッ〟
 米を噛めば噛むほどに、先程の周の言葉が耳に蘇る。まさか、雪也の過去を知って、その意味もわかっていて、そのようなことを言われるとは思ってもいなかった。いつも多くの言葉を紡ごうとはしない性格の周が、あれほどまでに言葉を重ねて――雪也を、庇う言葉を重ねて。
 ゆっくりと瞼を閉じれば、とんっ、と背中に小さな重みが加わる。周が雪也の背に己の背を凭れさせるようにしてきたのだろうと察せられた。
 もうひと口、もうひと口とおにぎりを頬張る。
 あぁ、なんて――
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