必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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 知っているけれど、知らない。そう決めた。この言葉だけで由弦には通じるだろう。その予想通り、由弦は納得していないように顔を顰めたが、それ以上何を言うこともなく、サクラを抱いた。
 庵の中に入れば、雪也は衝立の向こうで着替えをしているようだった。彼が今なにを思い、どんな顔をしているのか、周にはわからない。けれど知らないフリをするのだと決めたから、気にはなったが衝立から視線を外した。
 雪也が家を出る前に米は炊いていた。それがまだほんの少し温かいことを確認し、周は手を洗ってその米を掴む。もう随分慣れた手つきで塩をまぶしただけのおにぎりを作った。
 幾つかおにぎりを作り終えた時、ようやく着替え終えた雪也が衝立から出てくる。声も何も聞こえなかったが、その目元はほんのりと赤くなっていた。けれど、それも気づかないと周は決めている。何もないように腰かけ、纏わりつくサクラの頭を撫でながら微笑む雪也に近づき、周は何を言うことなく作り終えたおにぎりをひとつ持って、それを差し出した。
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