必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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「知っていて、聞いている。それの何が悪いの?」
 静かに、淡々と問いかけられた言葉に、末子も多恵も、まわりで聞き耳を立てていた大人たちも、皆が言葉を探すように視線を彷徨わせる。ああだから、こうだからと浮かぶ言葉はいくつもあるが、そのすべてが怒りを秘める周の瞳の前にはただの屁理屈にしか思えなくて。
「雪也の過去がどうであろうと、あなたには関係ない。あなたに何か害があるわけでもない。それに、あの近臣の誘いを雪也は断った。なら、雪也が望んでなかったことなんて誰が見てもわかるはず」
 周にしては珍しく、沢山の言葉を淡々と紡ぐ。それは末子に言い聞かせているというよりは、雪也に聞かせているようだった。
「子供が一人で生きていくのに、どれほどの道がある? 誰も味方がいない状態で、どれだけ選択肢がもらえる? 生きていく術を持たない子供を、あなたが言う〝汚らわしい〟世界に突き落としたのは大人なのに、どうして突き落とした大人じゃなくて、突き落とされた子供を責める?」
 その子供が、大人の力に敵うことがあるだろうか。逆らったら暴力を振るわれるかもしれない、あるいは何も持たされず裸で放り出されるかもしれない。仕事もなく、家もなく、どうやって生きていけばよいかもわからない小さく非力な子供が、生きていく為に選べる道など幾つもあるものか。
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