297 / 714
296
しおりを挟む
周の叫びに、末子の罵声も、まわりの騒めきもピタリと止まる。シンと静まり返ったその場に、周の声はひどく響いた。しかし怒りに我を忘れかけている周は、そんなまわりの沈黙には気づかず、雪也を傷つけ続ける末子と、己の母親を止めきることもできない多恵を睨み続けている。
「なッ……、あ、あんたは子供だから意味がわかってないんだッ。だから平気でそんなことが言えるんだよ。これは大人の話だ。わからない子供がしゃしゃり出てくるんじゃないよッ!」
男娼がどんな存在か、未だ子供である周にはわからない。そうである以上、雪也が過去に何をして生きてきたのか、なぜ汚らわしいと言われるのか、周には何もわからないだろう。だからこんなにも純粋な瞳で雪也を庇うことができるのだ。そう叫んだ末子に、周はどこか凪いだ瞳を向けた。
「知ってる、それくらい」
静かに零された言葉は、俄かに信じがたい。疑わしそうにねめつけ、何かを言おうとした末子を遮るように、周は続けた。
「子供だから、知らないと思ってるのは大人の傲慢。言ったって意味なんか分からないと思って、大人は平気でペラペラ喋るけど、そんなことを続けられれば嫌でもわかる。雪也が助けてくれる前は、そういう場所に居た。子供は知らないと大人が思ってるから、知らないフリをするだけ」
周は確かに子供だ。見た目も、年齢も。だが、何も知らないわけではない。
「なッ……、あ、あんたは子供だから意味がわかってないんだッ。だから平気でそんなことが言えるんだよ。これは大人の話だ。わからない子供がしゃしゃり出てくるんじゃないよッ!」
男娼がどんな存在か、未だ子供である周にはわからない。そうである以上、雪也が過去に何をして生きてきたのか、なぜ汚らわしいと言われるのか、周には何もわからないだろう。だからこんなにも純粋な瞳で雪也を庇うことができるのだ。そう叫んだ末子に、周はどこか凪いだ瞳を向けた。
「知ってる、それくらい」
静かに零された言葉は、俄かに信じがたい。疑わしそうにねめつけ、何かを言おうとした末子を遮るように、周は続けた。
「子供だから、知らないと思ってるのは大人の傲慢。言ったって意味なんか分からないと思って、大人は平気でペラペラ喋るけど、そんなことを続けられれば嫌でもわかる。雪也が助けてくれる前は、そういう場所に居た。子供は知らないと大人が思ってるから、知らないフリをするだけ」
周は確かに子供だ。見た目も、年齢も。だが、何も知らないわけではない。
1
お気に入りに追加
112
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【旧作】美貌の冒険者は、憧れの騎士の側にいたい
市川パナ
BL
優美な憧れの騎士のようになりたい。けれどいつも魔法が暴走してしまう。
魔法を制御する銀のペンダントを着けてもらったけれど、それでもコントロールできない。
そんな日々の中、勇者と名乗る少年が現れて――。
不器用な美貌の冒険者と、麗しい騎士から始まるお話。
旧タイトル「銀色ペンダントを離さない」です。
第3話から急展開していきます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。
水鳴諒
BL
目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
案外、悪役ポジも悪くない…かもです?
彩ノ華
BL
BLゲームの悪役として転生した僕はBADエンドを回避しようと日々励んでいます、、
たけど…思いのほか全然上手くいきません!
ていうか主人公も攻略対象者たちも僕に甘すぎません?
案外、悪役ポジも悪くない…かもです?
※ゆるゆる更新
※素人なので文章おかしいです!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
楽な片恋
藍川 東
BL
蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。
ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。
それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……
早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。
ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。
平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。
高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。
優一朗のひとことさえなければ…………
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
騎士団で一目惚れをした話
菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公
憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
金の野獣と薔薇の番
むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。
彼は事故により7歳より以前の記憶がない。
高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。
オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。
ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。
彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。
その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。
来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。
皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……?
4/20 本編開始。
『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。
(『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。)
※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。
【至高のオメガとガラスの靴】
↓
【金の野獣と薔薇の番】←今ココ
↓
【魔法使いと眠れるオメガ】
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる