必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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「ふん、とんだ興覚めよ。もうよいわ。お前が並べばその女子もただの凡人に過ぎぬからな」
 雪也も、多恵も、どちらもいらない。苦し紛れとも思える言葉を吐き捨てて、松中は苛立ちを隠そうともせずに籠へ乗り込んだ。おそらくは屋敷に帰り、荒れに荒れるのだろう。担ぎ手によって運ばれる籠を警戒を込めた眼差しで見つめていた時、ドンッと強い力で押され、足の震えていた身体は簡単に地へ打ち付けられた。突然のことに反応できず、地面に手をついた瞬間、激しい水音と共に雪也の全身に水がぶちまけられる。いかに水といえど、多量で投げつけるように浴びせられたそれは酷く痛い。
「雪也ッ!」
 そんな叫び声と共に近づいてくる足音が聞こえたが、そちらに顔を向けた瞬間、頬から頭にかけて水とは比べ物にならないほどの痛みが襲った。
「ッッ――!!」
「このッ、気色の悪い男娼めがッ」
 憎悪を凝縮したようなその声に、雪也は静かに瞼を閉じた。ゼェゼェと息を荒げながら叫ぶ末子の声に、道行く者達が雪也を振り返る。何事かと騒めくが、雪也に近づく者は一人を除いて、誰もいなかった。
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