必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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「有事の際には、お前に城へ行ってもらわねばならんが……、今、お前を傍から離したくはない。国の為にとお綺麗なことを言っているが、本音はお前を行かせるのが嫌なだけなのだろう」
 優がいるこの時だけは、弥生も心を休ませることができる。ようは優に甘えているのだ。ずっと気を張り詰めさせているのは、どれほど優れた人間であろうと、心の強い者であろうと、不可能に近い。眠らねば人は死んでしまうように、気を緩ませる場所がなければ、人は生きていけない。
 茂秋にも、弥生にとっての優のような存在がいれば、あるいは現状も変わっていたのかもしれない。相手が男だろうと女だろうと、それはどうでも良い。心を落ち着け、背を預けられる存在。そんな存在がいれば、これほどまでに追い詰められ、冷静さを欠くこともなかったのではないだろうか。
 弥生は国にその身を捧げている。もちろん、茂秋に対しても絶対的な忠誠を誓っていた。弥生にとって主は茂秋一人であるし、それは未来永劫変わらない。だが、茂秋からすれば、その心を疑うか否かに関わらず、すべての気を許し、甘えられる存在ではなかったのだろう。そうあれない己を不甲斐なく、申し訳なく思うが、こればかりはどうしようもない。起こってしまった過去を無かったことにはできないように、他人の心を己が思うまま勝手に動かすこともできはしない。
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