必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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「そんなに銭を貰うのが嫌か? まったくの正当報酬だというに、随分な顔をしておる」
 瞼を伏せ、俯きながら唇を噛む姿は、少なくとも金を貰う人間のものではない。
 薬に不純物はなく、薬として何も問題ないと言い切っておきながら、何をそんなに罪悪感を抱いているのか。
 変わった若者だと小さく笑う老人に、ずっと口を閉ざし見守っていた蒼の父がクツリと笑いを零す。
「おやっさん、雪ちゃんはこういう奴なんだよ。得をするってことを知らねぇんだ」
 まるで雪也は穢れを知らぬ善意の塊であるようなその言い方に、雪也は静かに俯く。本当は……そんなに綺麗なものではない。
「おかげで、おいそれと薬を買うことのできねぇ俺たちにはありがたいことだがな」
「それはそうかもしれんが、自分で定めた金額ならば、それは相手が誰であれ請求すべきだ。薬の材料はもちろんじゃが、手間賃を忘れてはならん。それはそなたが己の時間を割いて煎じた薬だということを忘れる者に、商いはできん」
 長年この呉服問屋を切り盛りし、金の動きを把握して栄えさせた老人の言葉はひどく重い。ゆっくりと顔を上げる雪也に、老人は皺が刻まれようとも鋭い眼差しを向けてきた。
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