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 美しい漆黒の髪。遊郭一の娼婦よりも美しいと言われる花の顔。しなやかな身体に、柔らかな物腰。
 甘えようと思えばどこまででも甘えられる環境にいながら、自らの手で稼ぎ、安価で診察と薬を提供してくれ、その腕は見事というより他ない。多くの者に手を差し伸べ、傷ついた子供や迫害されてきた青年と犬を無償で住まわせ、衣食住のすべてを与えて。
 多くの者が雪也を優しい人だと言う。優しく、穏やかで、その美しさも相まって菩薩のようだと。周などは心酔しきっており、由弦も優しい雪也を疑わない。弥生も優も紫呉も、雪也をいい子だと言う。優しく、我儘を言わぬ子だと。蒼も、湊も、雪也という人物について問えば、優しい人と答えるだろう。
 雪也はその事実を知っていた。知っていて、その優しさに嬉しく思い、同時に苦しくなる。
 わかっている。誰よりも、自分が自分のことをわかっている。自分が何者で、どうやって生きてきて、何を思っているのか。誰を偽れても、自分だけは偽れない。自分だけは、すべて知っている。
 いつか、報いを受ける時が来るだろう。善人だと人々に錯覚させた、その罪を償う時が来る。
 眠り、迎える新しい一日に、雪也は毎回その覚悟をするのだ。

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