必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

文字の大きさ
上 下
249 / 714

248

しおりを挟む
「……雪也は?」
「え?」
 周がポツンと呟いた言葉に、雪也は小首をかしげる。伝わっていないことを理解して、もう一度周は口を開いた。
「雪也は、書かないの?」
 字の練習にするのだから、もう雪也には必要ない。それは周にもわかっているが、この庵にいる周と由弦がするというのに、雪也だけがしないのは、なんだか胸がざわつく。それはなぜかと問われれば、明確な答えなんてわからないけれど。
「僕? 僕は――」
「いいじゃん! 雪也も一緒にやろうぜ! その方が俺たちもやる気になるかもだし?」
 周と由弦で使えばいいと口にしようとした雪也の言葉を遮り、由弦が周に飛び掛かるように抱き着きながらニカッと笑う。周の想いに気づいているのかいないのか、それでも思わぬところから援護が来て、周はこれを逃してはならないとばかりにコクコクと勢いよく何度も頷く。そんな二人の様子にポカンとしていた雪也は、次の瞬間にクスリと笑い、しょうがないとばかりに頷いた。
「じゃぁ、僕も参加させてもらおうかな」
 その応えに、パァッと周が瞳を輝かせる。あまりにも周が無言で喜ぶから、雪也は照れ臭そうに苦笑し、何も気づいていない由弦は物珍しそうに周の持つ冊子を眺めていた。
 早速、とばかりに由弦と周が筆をとり、たどたどしくはあるが文字を書き連ねる。この紙にどれだけのことが書けるのか楽しみだと、そのワクワクとした希望を文字にして。
 そしてどこか興奮している二人を寝かしつけ、雪也はそっと筆を取ると冊子の一番最後を開いた。音もなく、筆を滑らせる。墨が乾いたのを確認して、パタンと閉じた。

『これを見ている時、あなたは――』

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【旧作】美貌の冒険者は、憧れの騎士の側にいたい

市川パナ
BL
優美な憧れの騎士のようになりたい。けれどいつも魔法が暴走してしまう。 魔法を制御する銀のペンダントを着けてもらったけれど、それでもコントロールできない。 そんな日々の中、勇者と名乗る少年が現れて――。 不器用な美貌の冒険者と、麗しい騎士から始まるお話。 旧タイトル「銀色ペンダントを離さない」です。 第3話から急展開していきます。

楽な片恋

藍川 東
BL
 蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。  ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。  それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……  早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。  ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。  平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。  高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。  優一朗のひとことさえなければ…………

その瞳の先

sherry
BL
「お前だから守ってきたけど、もういらないね」 転校生が来てからすべてが変わる 影日向で支えてきた親衛隊長の物語 初投稿です。 お手柔らかに(笑)

今世では誰かに手を取って貰いたい

朝山みどり
BL
ノエル・レイフォードは魔力がないと言うことで、家族や使用人から蔑まれて暮らしていた。 ある日、妹のプリシラに突き飛ばされて、頭を打ち前世のことを思い出し、魔法を使えるようになった。 ただ、戦争の英雄だった前世とは持っている魔法が違っていた。 そんなある日、喧嘩した国同士で、結婚式をあげるように帝国の王妃が命令をだした。 選ばれたノエルは敵国へ旅立った。そこで待っていた男とその日のうちに婚姻した。思いがけず男は優しかった。 だが、男は翌朝、隣国との国境紛争を解決しようと家を出た。 男がいなくなった途端、ノエルは冷遇された。覚悟していたノエルは耐えられたが、とんでもないことを知らされて逃げ出した。

ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。

水鳴諒
BL
 目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)

案外、悪役ポジも悪くない…かもです?

彩ノ華
BL
BLゲームの悪役として転生した僕はBADエンドを回避しようと日々励んでいます、、 たけど…思いのほか全然上手くいきません! ていうか主人公も攻略対象者たちも僕に甘すぎません? 案外、悪役ポジも悪くない…かもです? ※ゆるゆる更新 ※素人なので文章おかしいです!

騎士団で一目惚れをした話

菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公 憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。

みどりとあおとあお

うりぼう
BL
明るく元気な双子の弟とは真逆の性格の兄、碧。 ある日、とある男に付き合ってくれないかと言われる。 モテる弟の身代わりだと思っていたけれど、いつからか惹かれてしまっていた。 そんな碧の物語です。 短編。

処理中です...