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「……雪也は?」
「え?」
周がポツンと呟いた言葉に、雪也は小首をかしげる。伝わっていないことを理解して、もう一度周は口を開いた。
「雪也は、書かないの?」
字の練習にするのだから、もう雪也には必要ない。それは周にもわかっているが、この庵にいる周と由弦がするというのに、雪也だけがしないのは、なんだか胸がざわつく。それはなぜかと問われれば、明確な答えなんてわからないけれど。
「僕? 僕は――」
「いいじゃん! 雪也も一緒にやろうぜ! その方が俺たちもやる気になるかもだし?」
周と由弦で使えばいいと口にしようとした雪也の言葉を遮り、由弦が周に飛び掛かるように抱き着きながらニカッと笑う。周の想いに気づいているのかいないのか、それでも思わぬところから援護が来て、周はこれを逃してはならないとばかりにコクコクと勢いよく何度も頷く。そんな二人の様子にポカンとしていた雪也は、次の瞬間にクスリと笑い、しょうがないとばかりに頷いた。
「じゃぁ、僕も参加させてもらおうかな」
その応えに、パァッと周が瞳を輝かせる。あまりにも周が無言で喜ぶから、雪也は照れ臭そうに苦笑し、何も気づいていない由弦は物珍しそうに周の持つ冊子を眺めていた。
早速、とばかりに由弦と周が筆をとり、たどたどしくはあるが文字を書き連ねる。この紙にどれだけのことが書けるのか楽しみだと、そのワクワクとした希望を文字にして。
そしてどこか興奮している二人を寝かしつけ、雪也はそっと筆を取ると冊子の一番最後を開いた。音もなく、筆を滑らせる。墨が乾いたのを確認して、パタンと閉じた。
『これを見ている時、あなたは――』
「え?」
周がポツンと呟いた言葉に、雪也は小首をかしげる。伝わっていないことを理解して、もう一度周は口を開いた。
「雪也は、書かないの?」
字の練習にするのだから、もう雪也には必要ない。それは周にもわかっているが、この庵にいる周と由弦がするというのに、雪也だけがしないのは、なんだか胸がざわつく。それはなぜかと問われれば、明確な答えなんてわからないけれど。
「僕? 僕は――」
「いいじゃん! 雪也も一緒にやろうぜ! その方が俺たちもやる気になるかもだし?」
周と由弦で使えばいいと口にしようとした雪也の言葉を遮り、由弦が周に飛び掛かるように抱き着きながらニカッと笑う。周の想いに気づいているのかいないのか、それでも思わぬところから援護が来て、周はこれを逃してはならないとばかりにコクコクと勢いよく何度も頷く。そんな二人の様子にポカンとしていた雪也は、次の瞬間にクスリと笑い、しょうがないとばかりに頷いた。
「じゃぁ、僕も参加させてもらおうかな」
その応えに、パァッと周が瞳を輝かせる。あまりにも周が無言で喜ぶから、雪也は照れ臭そうに苦笑し、何も気づいていない由弦は物珍しそうに周の持つ冊子を眺めていた。
早速、とばかりに由弦と周が筆をとり、たどたどしくはあるが文字を書き連ねる。この紙にどれだけのことが書けるのか楽しみだと、そのワクワクとした希望を文字にして。
そしてどこか興奮している二人を寝かしつけ、雪也はそっと筆を取ると冊子の一番最後を開いた。音もなく、筆を滑らせる。墨が乾いたのを確認して、パタンと閉じた。
『これを見ている時、あなたは――』
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