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「母さんったら、そんなことばっかり言って。雪也さんに良くしてもらってるのに、そんな風に思ってるなんて知られたら雪也さんが傷つくわ。雪也さんがいなかったら、母さんの薬を用意することもできなかったのに」
 ため息をつきながら末子に菓子を渡し、水で薄めた茶を淹れる。それに口をつけながら多恵はムスリと唇を尖らせた。
 多恵は末子から呉服問屋の息子との縁談を聞いてはいたが、さほど乗り気ではないのだ。そもそもそういった話が出たというだけで、まだ正式な縁談ではないし、相手は多恵よりも年上で岩のように大柄な男なのだ。醜男ではないが、雪也ほど美しくないし、何度か話したことはあるが話もあまり面白くない。結婚とは親が決めるものだとはわかってはいるが、多恵の中で彼に恋をする自分が全く想像できず、幸せになれるという想像もできない。ちょっとくらい美しい雪也に恋をしたとて良いではないか。別に身体の関係を持つわけでもないのだから、末子にとやかく言われることでもない。
 確かに雪也は金を持っていないが、呉服問屋の息子は金があるだけだ。
「薬は必要だからね、それに関してはありがたいと思ってるが、それはそれ、これはこれだよ。雪也ちゃんに長居するのは遠慮してもらうから、お前も雪也ちゃんがいる時はあんまり顔を出すんじゃないよ。それが駄目なら、少なくとも今日みたいに引き留めるような真似をするんじゃない。こんなことが呉服問屋のおじさんに知られたら縁談が無くなっちまう。お前にも傷がつくんだから、変なことをするんじゃないよ」
 不満そうな娘に幾度も幾度も釘を刺して、末子は深々とため息をついた。

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