必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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「末子おばあちゃんの縫い目はとても綺麗ですね。きっとお多恵さんも喜ばれますよ」
 新しい反物を買えるのは近臣や豪商くらいだ。雪也を含む庶民は皆、古着屋で着物を買って自分の丈に、自分の手で誂えなおす。古着屋には遊郭から古着が流れてくることもあり、それは客商売ゆえかあまり色も褪せておらず、汚れも目立たない、比較的新しく見える物が多いので取り合いになる。おそらくこの着物は、末子が娘の多恵の為に遊郭から流れてきた物を勝ち取ってきたのだろう。多恵とて年頃の娘だ。美しく新しい着物は心が浮き立ち、きっと喜ぶだろう。そう言う雪也に、末子はそうだろう、そうだろうと目尻の皺を深くしながら何度も頷いた。
「今ね、表通りにある呉服問屋のおじさんがね、多恵を息子さんの嫁にって考えてくれてるんだよ。あの子も良い歳だし、良い家に望まれて嫁ぐのが女の幸せってもんだろう? だからね、普段から身綺麗にして、可愛らしくしていないとね」
 身の丈以上の生活はできないが、それでも未来の娘婿になるかもしれない男にみすぼらしい娘だと思われたくない。綺麗で可愛らしい娘だと思われて、請われて嫁ぎ、大切にされてほしい。末子の行動はすべて娘のため。それがヒシヒシと伝わってきて、雪也はひとつ頷いた。
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