必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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「サクラ! どした?」
 その小さな身体を両手で抱き上げて顔を見つめれば、サクラは嬉しそうにキャッキャと笑っている。それが可愛くて、嬉しくて、由弦はギュッとサクラを抱きしめた。そんな由弦とサクラを、紫呉は微笑ましそうに見つめる。
 由弦がどういう感情でモヤモヤを抱いたのか、紫呉にはわからない。わからないが、由弦が楽しそうに笑ていてくれるなら、それで良い。
(ま、嘘は隠すの下手だけどな)
 それは本人には言わないでおこう。素直すぎると周りの大人は言うかもしれないが、紫呉としては可愛くて仕方がないから、これで良い。
「あれ? 随分楽しそうだね」
 キャッキャと笑いながら由弦とサクラが遊んでいれば、庵から雪也が出てきた。籠を持っているので、顧客に薬を届けに行くのだろう。
「あ、雪也! 出かけるのか?」
 雪也に向けられた視線は澄んでいて、その声音も弾んでいる。そこに由弦が言っていたモヤモヤがあるようには見えなかった。
(ま、別にモヤモヤする必要もねぇんだけどな。こればっかりは、流石に言えねぇけど)
 まだ由弦が子供だから。まだ、由弦の気持ちがわからないから。
 そんな、弥生が聞いたなら「言い訳だな」と一刀両断されそうなことを胸の内で並べ立てて、雪也と由弦の会話にボンヤリと耳を傾ける。
 おそらく、もう由弦の仕事は終わりだろう。なら約束通り槍を教えてやるのも良いかもしれない。
 もう己の感情に納得したのだろう、笑顔を見せる由弦に口端を上げて、紫呉は春風の屋敷から持ってきた練習用の槍を取りに行く為、庵の扉からヒョイと顔をのぞかせて捌き終わった鳥を渡した。
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