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気配を探るが、ここには雪也以外に誰一人としていないだろう。ならば、と紫呉は足音を殺して庵の方へと踵を返した。
耳をすませ、雪也が気づいていないことを確認しながら庵へ戻る。扉を開けば、モゾリと寝がえりをうつフリをして周がチラと視線を向けた。帰って来たのが紫呉とわかると、飛び起きて駆け寄る。
「……雪也は?」
いったい雪也はどこに行ったのだと瞳を揺らしながら周は紫呉を見上げる。そんな周を落ち着けるように笑みを見せて頭をポンポンと撫でながら、紫呉は胸の内で冷や汗をかいていた。
(どうすっかなぁ……)
流石に、身体こそ大人に近づいてはいるが、まだまだ子供である周に本当のことは言えない。否、たとえ周が大人であったとしても、雪也の事情をベラベラと話すのは憚られるだろう。
「あー、薬が効くまでの間、ちょっと気晴らししてたみたいだ。別に暴れたり変な奴に会ったりしてたわけじゃねぇから、気にするな。大丈夫っぽかったし、お前ももう寝ろ。もうすぐ雪也も帰ってくるだろう」
大丈夫だから、ともう一度繰り返し、ポンポンと周の頭を撫でて布団へ促す。周はまだどこか納得していないようではあったが、起きていることを雪也に知られたくはないのだろう、大人しく布団へ戻っていった。そんな周に苦笑して、紫呉も布団へ横になる。少しして、ほんの微かに空気を揺らしながら雪也が帰って来た。
耳をすませ、雪也が気づいていないことを確認しながら庵へ戻る。扉を開けば、モゾリと寝がえりをうつフリをして周がチラと視線を向けた。帰って来たのが紫呉とわかると、飛び起きて駆け寄る。
「……雪也は?」
いったい雪也はどこに行ったのだと瞳を揺らしながら周は紫呉を見上げる。そんな周を落ち着けるように笑みを見せて頭をポンポンと撫でながら、紫呉は胸の内で冷や汗をかいていた。
(どうすっかなぁ……)
流石に、身体こそ大人に近づいてはいるが、まだまだ子供である周に本当のことは言えない。否、たとえ周が大人であったとしても、雪也の事情をベラベラと話すのは憚られるだろう。
「あー、薬が効くまでの間、ちょっと気晴らししてたみたいだ。別に暴れたり変な奴に会ったりしてたわけじゃねぇから、気にするな。大丈夫っぽかったし、お前ももう寝ろ。もうすぐ雪也も帰ってくるだろう」
大丈夫だから、ともう一度繰り返し、ポンポンと周の頭を撫でて布団へ促す。周はまだどこか納得していないようではあったが、起きていることを雪也に知られたくはないのだろう、大人しく布団へ戻っていった。そんな周に苦笑して、紫呉も布団へ横になる。少しして、ほんの微かに空気を揺らしながら雪也が帰って来た。
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