必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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 弥生たちと共にサクラが寝ている囲炉裏の方へ向かう。静かに腰かけながら林檎を手に取れば、少し離れた視線の先で周が嬉しそうに雪也に話しかけ、雪也もうんうんと頷きながら微笑んでいる。本当に周は雪也の事が大好きなんだなと微笑ましくなって、心を温かくすると同時に、ふと、羨ましいと――まるで凪いだ水面に一滴の雫が落とされたような感覚を覚えた。
(……? 変なの~)
 自分の中に感じた不思議な感覚に首を傾げ、しかしそういったものを考えることが苦手な蒼は蓋をすることこそないものの目を逸らし、林檎に小刀を滑らし始めた。
「そういえば弥生さま、この前お役人たちが薄汚れた浪人かぶれのような男を目籠に入れて連行していましたが、すぐに証拠は集まりましたか?」
 目籠は罪人が入れられ護送される籠だ。鳥籠のような形の竹籠のため、外からも罪人の姿を見ることが出来る。蒼は雪也が男と揉めた場面を見てはいなかったが、よく刀を振り回して問題を起こす男であるため、人伝で雪也の話を聞いた時はすぐにあの男だとわかった。そしてその男が、罪人として警部所に連行された。それが誰の思惑で成されたものなのか、町人たちはともかく、蒼は気づいていた。
 弥生としてはあまり雪也に知られたくないのだろうと思って、雪也の名前も男の詳しいことも言わない蒼に、弥生はシュルシュルと器用に林檎の皮を剥きながらニィッと意地の悪い笑みを浮かべた。
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