必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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「雪也が作ったの?」
 雪也の事には敏感な周が首を傾げれば、今度は優が頷いた。
「雪也に筆の使い方を教えていた時に、最初から文字を書くのも難しいだろうからって弥生が筆を使って遊ぼうと言い出したんだよ。僕と紫呉も参加していてね、色々描いていたらこれが出来たんだよ」
 何か綺麗なものを描こう。墨をすりながら、弥生は雪也にそう言った。辛酸を舐めながら生きてきた雪也に、弥生は綺麗なもの、そして楽しいものを与えたかった。できることならば、ひとつの苦しみも与えたくないと。
 微笑む弥生は当時を思い出すようにゆっくりと瞼を閉じる。瞼の裏には、あの時の雪也がいた。筆の扱いに慣れず、指や頬を墨で汚しながら、どこか楽しそうに目を輝かせていた、その姿が。
「何が好きかと聞いたら、雪也が庭に咲いていた小さな花を指さしたんだ。それで、花を描こうと言った。難しいものは流石にすぐには無理だからな、円を重ねるだけならばできるかと雪也と考えたのだ。できれば、雪也には出来ないことではなく、出来たという事実を与えてやりたかったからな。だが思った以上の出来でな、雪也も気に入って何度も何度も描いていたぞ」
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