必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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「なんか調子狂うなぁ」
「すぐ慣れるよ~」
 ポツリと零された呟きに、蒼がニコニコと応える。彼の手にはいつの間にか瑞々しいキュウリと立派な白菜があって、雪也は嬉しそうにそれを受け取っていた。
「じゃぁ、待っているから」
 そんなことを言って、雪也は踵を返す。おそらくは今からたまご屋に向かうのだろう。そんな彼の背を見送りながら、湊は己の心臓がバクバクと早鐘をうっていることに気づいた。
 抑えることのできない、湧き上がる感情。言葉にするならば、それはきっと、歓喜と言うのだろう。

 後日、湊は本当に蒼と一緒に庵を訪れた。約束通り雪也は事前に湊の話をしていたのか、人懐っこい由弦はもちろん、人見知りする周も暖かく彼らを迎える。そして話を聞きつけた弥生たちも庵に訪れて、皆でちょっと豪華な夕食を囲んだ。
 わいわいガヤガヤと、声の途切れることない夕飯に笑みが零れ落ちる。簡素な庵が少々狭く感じるけれど、それが逆に暖かく思えた。

 雪也、周、由弦。湊と蒼。そしてサクラ。
 数奇な運命を辿る彼らが、初めて揃った瞬間だった。

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