158 / 714
157
しおりを挟む
雑草抜きや水やりを終え、サクラと一緒に由弦が帰ってくる。もう洗濯物は乾いているだろうかと呟けば、由弦はサクラと一緒に元気よく取り込みに言ってくれた。
煮物を作り、由弦と一緒に洗濯物を畳んでいれば、雪也がいつものように両手いっぱいにお土産を貰って帰ってくる。昨日のお礼だと、お小夜からは団子をもらったみたいだ。
「夕飯の後で一緒に食べようね」
そう言って笑う雪也に、周は頷き由弦は太陽のような笑みを浮かべる。
一緒に笑って一緒に夕飯を食べて、そして灯りを消して眠る。しばらくすればゴソゴソと小さな音がして、周がうっすらと瞼を開けば、やはり雪也が起き上がっていた。引き出しから薬包をふたつ取り、喉奥に流し込んでいる。周が持ち出した薬包は雪也が出かけている間に引き出しに戻しておいたから、きっと雪也には何も知られていないだろう。
〝変わらず、雪也の側にいてあげてね〟
優の言葉を思い出し、周は何も見ていないというかのように瞼を閉じて眠ったフリを続けた。
周は何も知らないし、何も気づいていない。今もずっと、周はグッスリ眠っている。雪也の中でそうあるように、カタリと扉の開かれた音を聞きながら吐息を零した。
「弥生、少し邪魔をするよ」
わざわざそう言って部屋に入って来た優に、弥生は読んでいた書物から顔を上げた。
「いつも気にせず入ってくるというのに珍しいな。紫呉まで一緒で、何かあったか?」
書物を閉じて床に置きながら視線を向ける弥生に、優の後ろを歩いていた紫呉は首を傾げながら肩を竦めた。どうやら紫呉もわけがわからぬままに連れられてきたらしい。
「弥生たちが城に行っている間にね、周が来たんだよ」
「周が? 珍しいな。雪也は一緒じゃなかったのか?」
一人だったね、と弥生の問いに答えた優に、弥生も紫呉もほんの僅かに目を見開いた。
周は人見知り気味であるため、あまり積極的に一人で動くことはしない。今でこそ食材の買い物などは一人で行っているようだが、来たことも無い春風の屋敷に一人で訪れるなど、珍しいどころの話ではないだろう。
「……何か、雪也にあったのか?」
鋭い瞳を優に向ける弥生は、雪也と断定した。おそらくはほんの僅かの間に答えを見つけ出したのだろう弥生の推察に、優は微笑む。
周に何かあれば弥生たちではなく、相談するならばまず雪也にするだろう。由弦かサクラであっても同じであるし、もしも弥生たちの力を借りなければならないものであれば周ではなく雪也が来るはずだ。雪也が動いておらず、周が必死になる理由。それを考えればひとつしかない。
煮物を作り、由弦と一緒に洗濯物を畳んでいれば、雪也がいつものように両手いっぱいにお土産を貰って帰ってくる。昨日のお礼だと、お小夜からは団子をもらったみたいだ。
「夕飯の後で一緒に食べようね」
そう言って笑う雪也に、周は頷き由弦は太陽のような笑みを浮かべる。
一緒に笑って一緒に夕飯を食べて、そして灯りを消して眠る。しばらくすればゴソゴソと小さな音がして、周がうっすらと瞼を開けば、やはり雪也が起き上がっていた。引き出しから薬包をふたつ取り、喉奥に流し込んでいる。周が持ち出した薬包は雪也が出かけている間に引き出しに戻しておいたから、きっと雪也には何も知られていないだろう。
〝変わらず、雪也の側にいてあげてね〟
優の言葉を思い出し、周は何も見ていないというかのように瞼を閉じて眠ったフリを続けた。
周は何も知らないし、何も気づいていない。今もずっと、周はグッスリ眠っている。雪也の中でそうあるように、カタリと扉の開かれた音を聞きながら吐息を零した。
「弥生、少し邪魔をするよ」
わざわざそう言って部屋に入って来た優に、弥生は読んでいた書物から顔を上げた。
「いつも気にせず入ってくるというのに珍しいな。紫呉まで一緒で、何かあったか?」
書物を閉じて床に置きながら視線を向ける弥生に、優の後ろを歩いていた紫呉は首を傾げながら肩を竦めた。どうやら紫呉もわけがわからぬままに連れられてきたらしい。
「弥生たちが城に行っている間にね、周が来たんだよ」
「周が? 珍しいな。雪也は一緒じゃなかったのか?」
一人だったね、と弥生の問いに答えた優に、弥生も紫呉もほんの僅かに目を見開いた。
周は人見知り気味であるため、あまり積極的に一人で動くことはしない。今でこそ食材の買い物などは一人で行っているようだが、来たことも無い春風の屋敷に一人で訪れるなど、珍しいどころの話ではないだろう。
「……何か、雪也にあったのか?」
鋭い瞳を優に向ける弥生は、雪也と断定した。おそらくはほんの僅かの間に答えを見つけ出したのだろう弥生の推察に、優は微笑む。
周に何かあれば弥生たちではなく、相談するならばまず雪也にするだろう。由弦かサクラであっても同じであるし、もしも弥生たちの力を借りなければならないものであれば周ではなく雪也が来るはずだ。雪也が動いておらず、周が必死になる理由。それを考えればひとつしかない。
1
お気に入りに追加
112
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【旧作】美貌の冒険者は、憧れの騎士の側にいたい
市川パナ
BL
優美な憧れの騎士のようになりたい。けれどいつも魔法が暴走してしまう。
魔法を制御する銀のペンダントを着けてもらったけれど、それでもコントロールできない。
そんな日々の中、勇者と名乗る少年が現れて――。
不器用な美貌の冒険者と、麗しい騎士から始まるお話。
旧タイトル「銀色ペンダントを離さない」です。
第3話から急展開していきます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
今世では誰かに手を取って貰いたい
朝山みどり
BL
ノエル・レイフォードは魔力がないと言うことで、家族や使用人から蔑まれて暮らしていた。
ある日、妹のプリシラに突き飛ばされて、頭を打ち前世のことを思い出し、魔法を使えるようになった。
ただ、戦争の英雄だった前世とは持っている魔法が違っていた。
そんなある日、喧嘩した国同士で、結婚式をあげるように帝国の王妃が命令をだした。
選ばれたノエルは敵国へ旅立った。そこで待っていた男とその日のうちに婚姻した。思いがけず男は優しかった。
だが、男は翌朝、隣国との国境紛争を解決しようと家を出た。
男がいなくなった途端、ノエルは冷遇された。覚悟していたノエルは耐えられたが、とんでもないことを知らされて逃げ出した。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。
水鳴諒
BL
目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
楽な片恋
藍川 東
BL
蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。
ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。
それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……
早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。
ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。
平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。
高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。
優一朗のひとことさえなければ…………
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
案外、悪役ポジも悪くない…かもです?
彩ノ華
BL
BLゲームの悪役として転生した僕はBADエンドを回避しようと日々励んでいます、、
たけど…思いのほか全然上手くいきません!
ていうか主人公も攻略対象者たちも僕に甘すぎません?
案外、悪役ポジも悪くない…かもです?
※ゆるゆる更新
※素人なので文章おかしいです!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
騎士団で一目惚れをした話
菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公
憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
みどりとあおとあお
うりぼう
BL
明るく元気な双子の弟とは真逆の性格の兄、碧。
ある日、とある男に付き合ってくれないかと言われる。
モテる弟の身代わりだと思っていたけれど、いつからか惹かれてしまっていた。
そんな碧の物語です。
短編。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる