必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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 不審に思われないようにと少し乱れた呼吸を落ち着けて庵に入れば、いつものように薬研の前に座っていた雪也は周に笑みを浮かべて、穏やかな声で「おかえり」と言った。
「良いの手に入った?」
 ゴリゴリと薬研を動かす手を止めぬままに問いかける雪也に、周もカゴを置きながら頷く。
「うん。蒼が選んでくれた」
「なら、きっと一番新鮮なものだね」
 優しく微笑む雪也はいつも通りで、やっぱり昨夜は少し眠れなかっただけなのだろうと周は胸を撫でおろす。いつの間にか近づいて来て足元にじゃれつくサクラの頭を撫でながら、今日こそは煮物を作ろうと前掛けをつけた。
「よし。じゃぁ僕はこの薬を届けてくるから、留守番よろしくね」
「うん。いってらっしゃい」
 薬を包んだ小さな風呂敷を手に立ち上がり、雪也は庵を出た。いつも通りその背中を見送る。扉が閉められた瞬間、雪也が何かを落ち着けるようにゆっくりと瞬きをしたことに、周は気づかなかった。
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