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弥生たちと鍋を囲み、屋敷に帰る彼らを見送り、風呂に入ってと、楽しくも慌ただしい時間が過ぎればシンと静まり返った夜が訪れた。
紫呉と会えたのが嬉しかったのか、はしゃいでいた由弦はサクラを抱きしめたままグッスリと眠り、周もその隣で小さく寝息を零している。そんな二人の様子を見て、同じように横になって眠ったフリをしていた雪也はゆっくりと起き上がり、足音を立てぬよう引き出しの前に行き、引き出しの中から薬包を二つ取り出した。
胸のざわつきはいつもの事だ。夜に眠れないことも。それでも今日はいつものようにひとつ分の薬では心が鎮まることも眠ることもできないとわかっていたので、雪也は躊躇うことなく二つ分の薬を喉奥に流し込んだ。
薬の苦みを飲み込んで、零れそうになるため息を飲み込む。夜の庵はシンと静まり返っているというのに、雪也の脳裏にはたくさんのことが蘇り、耳を塞ぎたくなるほどにうるさかった。けれど、耳を塞いだところで何一つとして、聞こえなくなることなど無い。
暴れそうになる身体を必死に抑え込み、雪也は踵を返すと足音を立てぬようにしながら庵を出た。暴れ、叫びたい気持ちを抑え込む雪也は気づかない。その後ろ姿を、ジッと周の双眸が見つめていた。
紫呉と会えたのが嬉しかったのか、はしゃいでいた由弦はサクラを抱きしめたままグッスリと眠り、周もその隣で小さく寝息を零している。そんな二人の様子を見て、同じように横になって眠ったフリをしていた雪也はゆっくりと起き上がり、足音を立てぬよう引き出しの前に行き、引き出しの中から薬包を二つ取り出した。
胸のざわつきはいつもの事だ。夜に眠れないことも。それでも今日はいつものようにひとつ分の薬では心が鎮まることも眠ることもできないとわかっていたので、雪也は躊躇うことなく二つ分の薬を喉奥に流し込んだ。
薬の苦みを飲み込んで、零れそうになるため息を飲み込む。夜の庵はシンと静まり返っているというのに、雪也の脳裏にはたくさんのことが蘇り、耳を塞ぎたくなるほどにうるさかった。けれど、耳を塞いだところで何一つとして、聞こえなくなることなど無い。
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