必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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 由弦はずっと外で暮らしてきた。物心ついた時には一緒にすごしていた師匠もまた、家など持っていなかった。山に入って食べられそうなものを探し、それをそのままか、あるいは火で焼いて食べることを繰り返した。おかげで食べてはいけないものを食べて腹を壊したことも数え切れぬほどあり、そんな生活はサクラを拾い、師匠がこの世を去ってからも続いていた。つまり由弦は普通の人間が繰り返す営みというものを知らない。それゆえに、人は生きるために何が必要なのか、よくわかっていないのだ。わからないものは思いつかず、ゆえにこれがしたいという形も全く見えてこない。
「雪也、俺には何が出来ると思う? 俺、そういうのよくわかんねぇんだよなぁ」
 深く長く考えたところで、わからないものはわからない。ならば素直にわからないと言うべきだろう。変に取り繕ったところで、結局わからないのであれば何もできはしないのだから。
「うーん、そうだなぁ……。動くのと、考えるの、どちらが良い?」
「動くの!!」
 雪也の問いかけに由弦は即答した。思わず大きな声が出てしまい、目の前にいる雪也はもちろん、包丁を握っていた周もビクリと震えて由弦を振り返る。そんな二人の様子にしまった、と由弦は肩を竦め、ごめんごめんと謝った。その瞬間にまったく動じもしなかったサクラの大イビキが響き渡る。
「……わ、わかった。じゃぁ、裏の庭の手入れを手伝ってくれる? 調合をしないといけないんだけど、雑草も抜かないといけなくて、自分があともう一人いないかなって、ボンヤリ思っていたんだ」
 お願いして良い? と、それなりに重労働であることを知っている雪也は申し訳なさそうに首を傾げるが、由弦はそれくらいならできそうだと顔を輝かせ、大きく頷いた。
「よし! 任せろ!」

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