112 / 714
111
しおりを挟む
「言ったはずだ。雪也達を侮ってもらっては困ると。確かに雪也も周も見た目はまだまだ若く、周は子供と言っても良いかもしれないが、そこらにいる者達とは器が違う」
生きてきた道が常の人間よりもうんと濃く、辛酸を何度も舐めている。しかしそれに染まらず生きてきたからこそ、今の雪也や周がいるのだ。その器でサクラや由弦を許容できないことなど無い。過去が過去なだけに、その確信を喜ぶことなど出来はしないが。
「そん、な、こと……言われたってわかんねぇよ。そんなん、誰も言わなかった」
唇を噛んで、雪也の腕からサクラを持ち上げると強く抱きしめる。俯く由弦にまどろみから覚めたサクラが〝どうした?〟と心配するように見上げた。
「皆サクラを嫌がるばかりだったんだ。こんなに可愛いし大人しいのに、皆嫌がる。そんな世界しか知らなかった」
だから人目を避け、サクラの目と耳を覆うように由弦がその身で盾になった。サクラは犬だ。人間の言葉は話さない。でも言われた言葉の意味は、わかっているはずだから。
「紫呉はちょっと変わってるから、こいつの側なら大丈夫かなって思ったんだ。でもついて行ったら近臣だのお屋敷だの言われて、そんな御大層なところ無理だし、誰にも認められない。そしたら庵があるって言うから、やっぱりサクラと二人で暮らすんだって、でも屋根があるだけでもありがたいかって思ったのに、普通に人いるし。こんな……こんな優しい世界があるなんて、俺は知らない……」
生きてきた道が常の人間よりもうんと濃く、辛酸を何度も舐めている。しかしそれに染まらず生きてきたからこそ、今の雪也や周がいるのだ。その器でサクラや由弦を許容できないことなど無い。過去が過去なだけに、その確信を喜ぶことなど出来はしないが。
「そん、な、こと……言われたってわかんねぇよ。そんなん、誰も言わなかった」
唇を噛んで、雪也の腕からサクラを持ち上げると強く抱きしめる。俯く由弦にまどろみから覚めたサクラが〝どうした?〟と心配するように見上げた。
「皆サクラを嫌がるばかりだったんだ。こんなに可愛いし大人しいのに、皆嫌がる。そんな世界しか知らなかった」
だから人目を避け、サクラの目と耳を覆うように由弦がその身で盾になった。サクラは犬だ。人間の言葉は話さない。でも言われた言葉の意味は、わかっているはずだから。
「紫呉はちょっと変わってるから、こいつの側なら大丈夫かなって思ったんだ。でもついて行ったら近臣だのお屋敷だの言われて、そんな御大層なところ無理だし、誰にも認められない。そしたら庵があるって言うから、やっぱりサクラと二人で暮らすんだって、でも屋根があるだけでもありがたいかって思ったのに、普通に人いるし。こんな……こんな優しい世界があるなんて、俺は知らない……」
1
お気に入りに追加
112
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【旧作】美貌の冒険者は、憧れの騎士の側にいたい
市川パナ
BL
優美な憧れの騎士のようになりたい。けれどいつも魔法が暴走してしまう。
魔法を制御する銀のペンダントを着けてもらったけれど、それでもコントロールできない。
そんな日々の中、勇者と名乗る少年が現れて――。
不器用な美貌の冒険者と、麗しい騎士から始まるお話。
旧タイトル「銀色ペンダントを離さない」です。
第3話から急展開していきます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
今世では誰かに手を取って貰いたい
朝山みどり
BL
ノエル・レイフォードは魔力がないと言うことで、家族や使用人から蔑まれて暮らしていた。
ある日、妹のプリシラに突き飛ばされて、頭を打ち前世のことを思い出し、魔法を使えるようになった。
ただ、戦争の英雄だった前世とは持っている魔法が違っていた。
そんなある日、喧嘩した国同士で、結婚式をあげるように帝国の王妃が命令をだした。
選ばれたノエルは敵国へ旅立った。そこで待っていた男とその日のうちに婚姻した。思いがけず男は優しかった。
だが、男は翌朝、隣国との国境紛争を解決しようと家を出た。
男がいなくなった途端、ノエルは冷遇された。覚悟していたノエルは耐えられたが、とんでもないことを知らされて逃げ出した。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。
水鳴諒
BL
目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
楽な片恋
藍川 東
BL
蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。
ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。
それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……
早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。
ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。
平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。
高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。
優一朗のひとことさえなければ…………
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
案外、悪役ポジも悪くない…かもです?
彩ノ華
BL
BLゲームの悪役として転生した僕はBADエンドを回避しようと日々励んでいます、、
たけど…思いのほか全然上手くいきません!
ていうか主人公も攻略対象者たちも僕に甘すぎません?
案外、悪役ポジも悪くない…かもです?
※ゆるゆる更新
※素人なので文章おかしいです!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
騎士団で一目惚れをした話
菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公
憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
みどりとあおとあお
うりぼう
BL
明るく元気な双子の弟とは真逆の性格の兄、碧。
ある日、とある男に付き合ってくれないかと言われる。
モテる弟の身代わりだと思っていたけれど、いつからか惹かれてしまっていた。
そんな碧の物語です。
短編。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる