99 / 714
98
しおりを挟む
(ん?)
すぐに消えてしまった影に紫呉は眉根を寄せる。特に殺気などは感じなかったが、何かが引っかかった。影が消えた場所を凝視し、紫呉はたてかけていた槍を手に取って立ち上がる。
「どうした?」
突然槍を手にした紫呉に、弥生と優が話を止め振り返る。そんな二人に紫呉は軽く手を振った。
「いや、ちょっと出てくるわ。んな危ねぇことはしねぇよ」
大丈夫だと言って紫呉は部屋を出る。さて、どこに行ったかと視線を巡らせて紫呉は記憶を頼りに歩き出す。
影の大きさを見るに子供ではないようだが、紫呉のように体格が良いわけでもなかったような気がする。武人の可能性は限りなく低いが、それでも用心しながら紫呉は歩調を速めた。
民家の裏、灯りが届かず薄暗い道に入り、紫呉は感覚を研ぎ澄ませる。何も見えないほどの漆黒ではないが、それでもこう暗くては視界に頼るのは愚行だろう。
(まさか本当に化け物ってことはないよな?)
昼間に聞いた光明の言葉が蘇り、紫呉はそんな自分の考えに苦笑する。そもそもここは峰藤だ。弥生がここに来ない限り紫呉にとっては縁の無い場所で、本当に化け物がいたとしても関係ないと言えば無い。それなのに何をこんなにも気にしているのかと自分自身に苦笑しながら、それでも足はゆっくりと歩みを進めていた。普通の通行人に見えるよう歩調は変えず、頭も動かさない。ただ視線だけをゆっくりと巡らせ、気配を探る。その時だった。
カタッ――。
小さな、ともすれば通りの声にかき消されてしまいそうなほどに微かな物音。しかし紫呉の勘が〝これだ〟と告げている。槍を握り直しながら、紫呉はゆっくりと音のした方へ足を向けた。ゆっくり、ゆっくりと近づく。眼前にあるのは雑多に積み上げられている木箱などの隙間。ボロボロのムシロが立てかけられている場所に紫呉は目を細めた。
すぐに消えてしまった影に紫呉は眉根を寄せる。特に殺気などは感じなかったが、何かが引っかかった。影が消えた場所を凝視し、紫呉はたてかけていた槍を手に取って立ち上がる。
「どうした?」
突然槍を手にした紫呉に、弥生と優が話を止め振り返る。そんな二人に紫呉は軽く手を振った。
「いや、ちょっと出てくるわ。んな危ねぇことはしねぇよ」
大丈夫だと言って紫呉は部屋を出る。さて、どこに行ったかと視線を巡らせて紫呉は記憶を頼りに歩き出す。
影の大きさを見るに子供ではないようだが、紫呉のように体格が良いわけでもなかったような気がする。武人の可能性は限りなく低いが、それでも用心しながら紫呉は歩調を速めた。
民家の裏、灯りが届かず薄暗い道に入り、紫呉は感覚を研ぎ澄ませる。何も見えないほどの漆黒ではないが、それでもこう暗くては視界に頼るのは愚行だろう。
(まさか本当に化け物ってことはないよな?)
昼間に聞いた光明の言葉が蘇り、紫呉はそんな自分の考えに苦笑する。そもそもここは峰藤だ。弥生がここに来ない限り紫呉にとっては縁の無い場所で、本当に化け物がいたとしても関係ないと言えば無い。それなのに何をこんなにも気にしているのかと自分自身に苦笑しながら、それでも足はゆっくりと歩みを進めていた。普通の通行人に見えるよう歩調は変えず、頭も動かさない。ただ視線だけをゆっくりと巡らせ、気配を探る。その時だった。
カタッ――。
小さな、ともすれば通りの声にかき消されてしまいそうなほどに微かな物音。しかし紫呉の勘が〝これだ〟と告げている。槍を握り直しながら、紫呉はゆっくりと音のした方へ足を向けた。ゆっくり、ゆっくりと近づく。眼前にあるのは雑多に積み上げられている木箱などの隙間。ボロボロのムシロが立てかけられている場所に紫呉は目を細めた。
1
お気に入りに追加
112
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【旧作】美貌の冒険者は、憧れの騎士の側にいたい
市川パナ
BL
優美な憧れの騎士のようになりたい。けれどいつも魔法が暴走してしまう。
魔法を制御する銀のペンダントを着けてもらったけれど、それでもコントロールできない。
そんな日々の中、勇者と名乗る少年が現れて――。
不器用な美貌の冒険者と、麗しい騎士から始まるお話。
旧タイトル「銀色ペンダントを離さない」です。
第3話から急展開していきます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
今世では誰かに手を取って貰いたい
朝山みどり
BL
ノエル・レイフォードは魔力がないと言うことで、家族や使用人から蔑まれて暮らしていた。
ある日、妹のプリシラに突き飛ばされて、頭を打ち前世のことを思い出し、魔法を使えるようになった。
ただ、戦争の英雄だった前世とは持っている魔法が違っていた。
そんなある日、喧嘩した国同士で、結婚式をあげるように帝国の王妃が命令をだした。
選ばれたノエルは敵国へ旅立った。そこで待っていた男とその日のうちに婚姻した。思いがけず男は優しかった。
だが、男は翌朝、隣国との国境紛争を解決しようと家を出た。
男がいなくなった途端、ノエルは冷遇された。覚悟していたノエルは耐えられたが、とんでもないことを知らされて逃げ出した。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
案外、悪役ポジも悪くない…かもです?
彩ノ華
BL
BLゲームの悪役として転生した僕はBADエンドを回避しようと日々励んでいます、、
たけど…思いのほか全然上手くいきません!
ていうか主人公も攻略対象者たちも僕に甘すぎません?
案外、悪役ポジも悪くない…かもです?
※ゆるゆる更新
※素人なので文章おかしいです!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
騎士団で一目惚れをした話
菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公
憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
どうやら手懐けてしまったようだ...さて、どうしよう。
彩ノ華
BL
ある日BLゲームの中に転生した俺は義弟と主人公(ヒロイン)をくっつけようと決意する。
だが、義弟からも主人公からも…ましてや攻略対象者たちからも気に入れられる始末…。
どうやら手懐けてしまったようだ…さて、どうしよう。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
うまく笑えない君へと捧ぐ
西友
BL
本編+おまけ話、完結です。
ありがとうございました!
中学二年の夏、彰太(しょうた)は恋愛を諦めた。でも、一人でも恋は出来るから。そんな想いを秘めたまま、彰太は一翔(かずと)に片想いをする。やがて、ハグから始まった二人の恋愛は、三年で幕を閉じることになる。
一翔の左手の薬指には、微かに光る指輪がある。綺麗な奥さんと、一歳になる娘がいるという一翔。あの三年間は、幻だった。一翔はそんな風に思っているかもしれない。
──でも。おれにとっては、確かに現実だったよ。
もう二度と交差することのない想いを秘め、彰太は遠い場所で笑う一翔に背を向けた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
金の野獣と薔薇の番
むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。
彼は事故により7歳より以前の記憶がない。
高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。
オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。
ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。
彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。
その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。
来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。
皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……?
4/20 本編開始。
『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。
(『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。)
※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。
【至高のオメガとガラスの靴】
↓
【金の野獣と薔薇の番】←今ココ
↓
【魔法使いと眠れるオメガ】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる