必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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(ん?)
 すぐに消えてしまった影に紫呉は眉根を寄せる。特に殺気などは感じなかったが、何かが引っかかった。影が消えた場所を凝視し、紫呉はたてかけていた槍を手に取って立ち上がる。
「どうした?」
 突然槍を手にした紫呉に、弥生と優が話を止め振り返る。そんな二人に紫呉は軽く手を振った。
「いや、ちょっと出てくるわ。んな危ねぇことはしねぇよ」
 大丈夫だと言って紫呉は部屋を出る。さて、どこに行ったかと視線を巡らせて紫呉は記憶を頼りに歩き出す。
 影の大きさを見るに子供ではないようだが、紫呉のように体格が良いわけでもなかったような気がする。武人の可能性は限りなく低いが、それでも用心しながら紫呉は歩調を速めた。
 民家の裏、灯りが届かず薄暗い道に入り、紫呉は感覚を研ぎ澄ませる。何も見えないほどの漆黒ではないが、それでもこう暗くては視界に頼るのは愚行だろう。
(まさか本当に化け物ってことはないよな?)
 昼間に聞いた光明の言葉が蘇り、紫呉はそんな自分の考えに苦笑する。そもそもここは峰藤だ。弥生がここに来ない限り紫呉にとっては縁の無い場所で、本当に化け物がいたとしても関係ないと言えば無い。それなのに何をこんなにも気にしているのかと自分自身に苦笑しながら、それでも足はゆっくりと歩みを進めていた。普通の通行人に見えるよう歩調は変えず、頭も動かさない。ただ視線だけをゆっくりと巡らせ、気配を探る。その時だった。

 カタッ――。

 小さな、ともすれば通りの声にかき消されてしまいそうなほどに微かな物音。しかし紫呉の勘が〝これだ〟と告げている。槍を握り直しながら、紫呉はゆっくりと音のした方へ足を向けた。ゆっくり、ゆっくりと近づく。眼前にあるのは雑多に積み上げられている木箱などの隙間。ボロボロのムシロが立てかけられている場所に紫呉は目を細めた。

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