必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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 ゴロゴロと転げまわって喜びを叫んでしまいたい胸の内を押し隠しながら、それでも口元を綻ばせている周の姿に、雪也は優しく微笑んだ。
 歪なおにぎりは、不慣れな子供が作ったとすぐにわかるものだ。手慣れた大人が作ったものには、技術や味の点で敵わない。だが雪也の舌に、このおにぎりはとても美味しいものだった。弥生たちが作ってくれる料理とはまた違う、その優しさ。スッと身体の中から重怠く淀んでいた疲れが退いていくような感覚がする。
「ありがとう」
 再び呟かれたその言葉に、周は嬉しそうにはにかんだ。
 その日から周は雪也が帰ってくると何かを作って待っているようになった。時折薬を取りに来る蒼に何やら料理を教えてもらっているらしく、最初は歪なおにぎりだけだったものが、肉や野菜、たまごを使った総菜が増えていった。いつしか紫蘭の庵で料理を作るのはもっぱら周の役目となり、雪也が食べる最初のひと口を、いつもジッと見つめては小さく笑みを浮かべる。その楽しそうな様子に最初のオドオドとして居心地の悪そうな、罪悪感を覚えているような様子が消えたことを知り、雪也もまた優しく微笑んだ。

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