必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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「じゃぁ、あんまり無理しないでくださいね」
 人の好い老婦人にそう告げて、優しい眼差しで手を振ってくれる婦人に手を振り返し雪也は外に出た。ゆっくりと帰路につく雪也を町の者達が引き留めてはあれこれと話をしていく。微笑みながら頷いて相槌をうつ雪也に皆の話は尽きず、最後には「これは売れないから」と、どう見ても売れないわけがない美味しい野菜などを持たせた。
 そんなことを繰り返していれば、すっかり空は赤く染まっていて、雪也は両手いっぱいの荷物を抱えながら小さく息をついた。
 愛されることは嬉しい。大切にされ、気遣われることは少し申し訳なさを覚えるけれど、それでも嬉しいことには変わりない。だが、随分と時間が経ってしまった。周は一人で留守番をしているはずだが、お腹は空いていないだろうか? 今から作るとなると少し時間がかかるだろう。疲れた身体を自覚しているだけにこれからの調理を思うとため息がこぼれるが、そうもいっていられない。
 なんとか庵にたどり着き、荷物を落とさないよう、ゆっくりと扉に手をかけた。
「ただいま。周、お腹空いてるよね。すぐに……」
 両手いっぱいの荷物を下ろして周に視線を向けようとした時、雪也の目の前に周が近づいて来た。両手を背中に隠して俯き、モジモジとしている周に雪也は首を傾げる。もしや、と以前のことを思い出すが、しかし焦げた臭いも視界を白くする煙もない。
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