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「そうですか、当主が。知らず失礼を」
頭を下げた紫呉に、光明は慌てたように首を横に振り、顔を上げるよう促した。
「いやいやいやッ、私の方こそ申し訳ない。ここに来る道中で怪しい者が頻繁に出没するって話を聞いたもんですから、ちょっと知らない人に過敏になってしまっただけで。春風様の護衛殿に頭を下げさせたなんて知られたら、私は父にも杜環様にも怒られてしまう」
どうやら光明はその〝怪しい者〟にずいぶんと警戒しているらしい。それは構わないが、そのようなことをペラペラと簡単に杜環の客の護衛である紫呉に話してしまっても良いのだろうか? この程度で怒るような弥生ではないが、ほんの少し警戒されるだけでも烈火のごとく怒鳴り散らす近臣は数えきれないほど存在するというのに。
だが、見たところ光明に悪意はなく、うっかり口を滑らせてしまったのだろうと判断して、紫呉は気づかないフリをした。
「怪しい者とは、この峰藤で命知らずですね。組織に属さない武人でしょうか?」
「あー、私も実際に見たわけではないけど、噂に聞く限りはそういった〝怪しい〟じゃないみたいで」
おそらくは光明もどう言葉にしたら良いかわからないのだろう。渋い顔をして腕を組みながら首を捻っている。
「別に徒党組んでるっていうわけでもないし、刃物を振り回しているわけでもない。特に暴れまわったりもしていないみたいですけど、町の者は皆そろって〝バケモン〟を連れてると」
「バケモン?」
これはまた、随分と風変りな話だ。確かに古来より妖などの話は聞くが、化け物とは珍しい。しかし町の者が幾人もそう言うということは、単なるホラ話というわけでもないのだろうか?
「そのように聞いていますよ。もちろん、話の全部を信じてるってわけじゃないですけど、まだ何もわからないままなので春風様がお戻りになる際も、どうぞお気をつけくださいね」
近頃は何かと物騒だ。近臣でも安心はできない――否、近臣だからこそ命を狙われることもある。化け物というのはよくわからないが、警戒しておくことに越したことは無いだろう。
「かたじけない。肝に銘じておく」
しっかりと頷いた紫呉に、光明ニコニコと人懐っこそうな柔らかい笑みを浮かべた。
頭を下げた紫呉に、光明は慌てたように首を横に振り、顔を上げるよう促した。
「いやいやいやッ、私の方こそ申し訳ない。ここに来る道中で怪しい者が頻繁に出没するって話を聞いたもんですから、ちょっと知らない人に過敏になってしまっただけで。春風様の護衛殿に頭を下げさせたなんて知られたら、私は父にも杜環様にも怒られてしまう」
どうやら光明はその〝怪しい者〟にずいぶんと警戒しているらしい。それは構わないが、そのようなことをペラペラと簡単に杜環の客の護衛である紫呉に話してしまっても良いのだろうか? この程度で怒るような弥生ではないが、ほんの少し警戒されるだけでも烈火のごとく怒鳴り散らす近臣は数えきれないほど存在するというのに。
だが、見たところ光明に悪意はなく、うっかり口を滑らせてしまったのだろうと判断して、紫呉は気づかないフリをした。
「怪しい者とは、この峰藤で命知らずですね。組織に属さない武人でしょうか?」
「あー、私も実際に見たわけではないけど、噂に聞く限りはそういった〝怪しい〟じゃないみたいで」
おそらくは光明もどう言葉にしたら良いかわからないのだろう。渋い顔をして腕を組みながら首を捻っている。
「別に徒党組んでるっていうわけでもないし、刃物を振り回しているわけでもない。特に暴れまわったりもしていないみたいですけど、町の者は皆そろって〝バケモン〟を連れてると」
「バケモン?」
これはまた、随分と風変りな話だ。確かに古来より妖などの話は聞くが、化け物とは珍しい。しかし町の者が幾人もそう言うということは、単なるホラ話というわけでもないのだろうか?
「そのように聞いていますよ。もちろん、話の全部を信じてるってわけじゃないですけど、まだ何もわからないままなので春風様がお戻りになる際も、どうぞお気をつけくださいね」
近頃は何かと物騒だ。近臣でも安心はできない――否、近臣だからこそ命を狙われることもある。化け物というのはよくわからないが、警戒しておくことに越したことは無いだろう。
「かたじけない。肝に銘じておく」
しっかりと頷いた紫呉に、光明ニコニコと人懐っこそうな柔らかい笑みを浮かべた。
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