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「見たところこちらの使用人ではないようだが、ご友人か?」
 穏やかに尋ねながら、そうとはわからぬよう、いつでも構えられるように槍を持つ。男はその動きに気づかないのか、あるいは気づいていての豪胆さなのか、ニコニコと浮かべたまま真っ直ぐに、紫呉へ視線を向けてくる。
「これは失礼を。私は久保 光明。織戸築(おとつき)の者ですが、峰藤の補佐官とは親戚関係でもありましてね。昨日から私用でこちらに逗留しているんですが、今日は珍しく来客があったようで、特に用事があるわけでもないから庭をブラブラと歩いてたんですよ」
 織戸築の久保と言えば、この峰藤の隣に位置する織戸築領の領主ではないか。確か現当主は齢七十を超えていたはずなので、目の前の彼は当主の末息子か孫のどちらかだろう。あいにくと領主の名前はともかくとして、その息子や孫までは覚えていない紫呉であるが、どちらにせよ久保を名乗る以上それなりの家であると判断し、紫呉は姿勢を正した。
「織戸築の方でしたか。知らず無礼を。私は春風 弥生の護衛を務めております夏川 紫呉と申すもの。本日は主が峰藤領の杜環様にご挨拶をとのことで、供として窺ったしだいにございます」
 光明は適当に庭を歩いていたと言っていたが、明らかに部外者が立っていることで僅かなりとも警戒しているのだろうと予測し、紫呉は春風の名も出して丁寧に口上する。その姿にか、あるいは春風の名にか、それはわからないが光明はふにゃりと力の抜けた笑みを見せた。
「お客さんっていうのは春風様のことでしたか。ご当主には、何度か織戸築にいらした時にご挨拶をさせていただきました」
 どうやら光明は弥生に会ったことは無いらしいが、弥生の父には会ったことがあるらしい。懐かしそうに目尻を下げて語る姿を見るに、弥生の父は織戸築と良い関係を築いていたのだろう。流石は縁づくりの化け物だ。
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