必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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 のどかな庭に吹き抜ける風が心地よい。そんな中であと何が残っていたかと予定を思い出していると睡魔が襲ってくるが、流石に護衛中に惰眠を貪るわけにもいかない。
 ふわぁぁ、とついつい欠伸を零した時、庭先にいた男とうっかり目が合ってしまった。
「「…………」」
 二人とも無言で見つめ合う。気まずい空気が流れた。
 流石の紫呉もそこに男がいるのはわかっていたが、こちらに視線を向けることも無かったのでついつい気を緩めてしまった。まさか欠伸をするその瞬間に限って顔を向けられるなどと誰も思うまい。それともこれは安全圏であったとしても警護は警護なのだから気を緩めるなという優の呪いであろうか。
「あ、あー、面目ない。気にしないでくれ」
 どうにかこの気まずい空気を壊したいと、紫呉はガシガシと髪を掻きながら苦笑した。その見た目に似合わぬ人懐っこい雰囲気に気づいたのか、男も肩の力を抜いてフッと小さく笑う。
「いいえ、私の方こそジロジロと不躾に見てしまって、すみません」
 男は雪也と同じくらいの年頃だろうか、若々しさが全面に出た面差しに、紫呉と同じくらい鍛え上げた肉体をしていた。丁寧ではあるものの人懐っこい口調で紫呉に近づくと、目じりを下げてふにゃりと笑う。その気が抜けそうな雰囲気と着崩しすぎて胸元どころか鍛え抜かれた腹ですら見える姿に、紫呉は努めて笑みを見せた。
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