必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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「ただいま…………なんか焦げ臭い?」
 足の悪い老夫婦に薬を届け軽い足取りで庵に帰った雪也は、扉を開けた瞬間に鼻腔をくすぐった焦げた臭いに眉根を寄せ、速足に中へ入る。視界は少々かすんでいるが、炎は見当たらない。ともかく周を見つけなければと視線を巡らせれば、床に置いた釜の前で蹲る子供の姿を見つけた。よくよく見れば、その肩は小さく震えている。思えば焦げた臭いは彼の方向から漂ってきて、もしやと雪也は念のため辺りを警戒しながら周に近づいた。チラと視線を向ければ、やはりそこにはところどころ焦げを通り越して黒くなっている米らしきものがある。やはり臭いの元はこれかと納得して、とりあえず火が消えていることを確認してから雪也は周の側にしゃがみ込んだ。そっと手を乗せると、ビクリと大げさなほどに周の肩が震える。
「周? どうした? お腹空いた?」
 なるだけ優しく聞こえるよう問いかければ、周は腕に顔を埋めたまま首を横に振った。どうしたのかと髪を撫でると、くぐもった声が聞こえる。
「……ごめんなさい」
 小さな謝罪は枯れていて、随分と泣いたことが窺えた。さてどうしたものかと悩みながら、無意識のうちに何度も何度も周の髪を撫でる。
「ご飯のこと? よくわからないけど、失敗は誰にでもあるから、火事になったわけでもないみたいだし、気にしなくていい。それより、怪我は? 火傷とかしなかった?」
 なるだけ優しく手を取る。傷が無いかを確かめようとした時、ようやく周はノロノロと顔を上げた。頬に涙の跡がくっきりとついていて、赤い瞳が可哀そうになる。
 袖で涙を拭ってやり、そっと手に視線を向ける。熱い釜でも触ってしまったのだろうか、指先が赤くなっていた。爛れてはおらず軽い火傷のようだが、手当は必要だろう。
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