必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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 何を食べようか、安いものはあるかな? と話しかけながら歩く雪也の背を見つめ、周は静かに足を止めた。それに気づき、雪也も足を止めて振り返る。周は俯いたまま、そっと雪也から手を離した。
「……なんで」
 ポツリと零された言葉に雪也は身体ごと周に向き直り、静かに視線を向けた。
「どうした?」
 雪也の問いかけに、周は幾度か言葉を紡ごうと口を開くも、結局声に出すことが出来ずに閉じるを繰り返す。周囲の騒めきに対して、二人の間には沈黙が落ちる。穏やかに待つ雪也に、周はますます俯きながら、それでも絞り出すように言葉を紡いだ。
「……なんで、助けてくれたの? あんなこと、したら……、雪也が……」
 周にとって主人であった老人は恐怖の象徴だった。そんな老人に歯向かい、あのように公衆の面前で屈辱を味合わせるなど、正気の沙汰ではない。それも雪也にとって周はただの他人だ。周が傷つき死にかけていたから、情けをかけて保護してくれただけに過ぎない。老人の執念深さと陰湿さを考えれば、あの時知らぬ存ぜぬを貫き通し周を老人に引き渡してしまえばよかったものを。なまじ周を庇ったばかりに、もしかすれば雪也は老人に復讐され生活を、あるいは命を脅かされるかもしれないというのに。そしてそれがわからないほど雪也は馬鹿でもなければ短絡的でもないだろう。――ならば何故ッ!?
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