上 下
73 / 647

72

しおりを挟む
 微笑みさえ浮かべて踵を返した雪也は、怯えて動くこともできない周を庇うようにしながら手を引いた。まるで何事も無かったかのようにあれこれと話しかけながら歩く雪也に、周は何も言葉を返すことはしないが、ゆっくりと足をうごかして雪也について行っている。それに雪也が微笑んで、また何かを話しかけていた。遠ざかっていく二人の姿を、老人が顔を真っ赤にして射殺さんばかりに睨みつけている。その姿に老人のお付きたちは冷や汗を流し、主の逆鱗に触れぬよう息さえも殺していたが、全ての成り行きを見ていた肉屋の女将がそろりと老人に近づいて、止めておいた方が良いと言った。その言葉に老人は勢いよく振り返り女将を睨みつけるが、女将はゆっくりと首を横に振る。
「あの子は春風様が可愛がってる子ですよ。弥生様だけじゃなくて、ご当主も目をかけていらっしゃる。さっきの会話を聞くに今の所は春風様の耳には入れないでいてくれるでしょうけど、次に何かをしたらその限りじゃない。男娼と侮辱しただけでも弥生様はお怒りになるだろうに、あの子供を傷つけたなんて知ったら、それこそ警部所行きになっちまいますよ」
 それに、女将は言わなかったが雪也の庵にここしばらく優が毎日のように通っていたのを多くの者達が見ている。弥生が周の傷について知らないということは無いだろう。雪也や周に何かあれば、弥生は容易く沈黙を破り、この老人も一家も、すべてを潰しに来る。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

SS大集合!(大?)

十時(如月皐)
BL
リクエストいただいた小話や突発的に書きたくなった小話など、本当にSSとよべるお話の集まりです。書いたら更新、します! 「望んだものはただ、ひとつ」等、既刊の長編のお話に関するSSはこちらではなく、新しいのを作ります。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…

東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で…… だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?! ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に? 攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。

底辺冒険者で薬師の僕は一人で生きていきたい

奈々月
BL
 冒険者の父と薬師の母を持つレイは、父と一緒にクエストをこなす傍ら母のために薬草集めをしつつ仲良く暮らしていた。しかし、父が怪我がもとで亡くなり母も体調を崩すようになった。良く効く薬草は山の奥にしかないため、母の病気を治したいレイはギルのクエストに同行させてもらいながら薬草採取し、母の病気を治そうと懸命に努力していた。しかし、ギルの取り巻きからはギルに迷惑をかける厄介者扱いされ、ギルに見えないところでひどい仕打ちを受けていた。 母が亡くなり、もっといろいろな病気が治せる薬師になるために、目標に向かって進むが・・・。 一方、ギルバートはレイの父との約束を果たすため邁進し、目標に向かって進んでいたが・・・。

悪役令息の死ぬ前に

やぬい
BL
「あんたら全員最高の馬鹿だ」  ある日、高貴な血筋に生まれた公爵令息であるラインハルト・ニーチェ・デ・サヴォイアが突如として婚約者によって破棄されるという衝撃的な出来事が起こった。  彼が愛し、心から信じていた相手の裏切りに、しかもその新たな相手が自分の義弟だということに彼の心は深く傷ついた。  さらに冤罪をかけられたラインハルトは公爵家の自室に幽閉され、数日後、シーツで作った縄で首を吊っているのを発見された。  青年たちは、ラインハルトの遺体を抱きしめる男からその話を聞いた。その青年たちこそ、マークの元婚約者と義弟とその友人である。 「真実も分からないクセに分かった風になっているガキがいたからラインは死んだんだ」  男によって過去に戻された青年たちは「真実」を見つけられるのか。

目覚めたそこはBLゲームの中だった。

BL
ーーパッパー!! キキーッ! …ドンッ!! 鳴り響くトラックのクラクションと闇夜を一点だけ照らすヘッドライト‥ 身体が曲線を描いて宙に浮く… 全ての景色がスローモーションで… 全身を襲う痛みと共に訪れた闇は変に心地よくて、目を開けたらそこは――‥ 『ぇ゙ッ・・・ ここ、どこ!?』 異世界だった。 否、 腐女子だった姉ちゃんが愛用していた『ファンタジア王国と精霊の愛し子』とかいう… なんとも最悪なことに乙女ゲームは乙女ゲームでも… BLゲームの世界だった。

Ωの皇妃

永峯 祥司
BL
転生者の男は皇后となる運命を背負った。しかし、その運命は「転移者」の少女によって狂い始める──一度狂った歯車は、もう止められない。

処理中です...