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微笑みさえ浮かべて踵を返した雪也は、怯えて動くこともできない周を庇うようにしながら手を引いた。まるで何事も無かったかのようにあれこれと話しかけながら歩く雪也に、周は何も言葉を返すことはしないが、ゆっくりと足をうごかして雪也について行っている。それに雪也が微笑んで、また何かを話しかけていた。遠ざかっていく二人の姿を、老人が顔を真っ赤にして射殺さんばかりに睨みつけている。その姿に老人のお付きたちは冷や汗を流し、主の逆鱗に触れぬよう息さえも殺していたが、全ての成り行きを見ていた肉屋の女将がそろりと老人に近づいて、止めておいた方が良いと言った。その言葉に老人は勢いよく振り返り女将を睨みつけるが、女将はゆっくりと首を横に振る。
「あの子は春風様が可愛がってる子ですよ。弥生様だけじゃなくて、ご当主も目をかけていらっしゃる。さっきの会話を聞くに今の所は春風様の耳には入れないでいてくれるでしょうけど、次に何かをしたらその限りじゃない。男娼と侮辱しただけでも弥生様はお怒りになるだろうに、あの子供を傷つけたなんて知ったら、それこそ警部所行きになっちまいますよ」
それに、女将は言わなかったが雪也の庵にここしばらく優が毎日のように通っていたのを多くの者達が見ている。弥生が周の傷について知らないということは無いだろう。雪也や周に何かあれば、弥生は容易く沈黙を破り、この老人も一家も、すべてを潰しに来る。
「あの子は春風様が可愛がってる子ですよ。弥生様だけじゃなくて、ご当主も目をかけていらっしゃる。さっきの会話を聞くに今の所は春風様の耳には入れないでいてくれるでしょうけど、次に何かをしたらその限りじゃない。男娼と侮辱しただけでも弥生様はお怒りになるだろうに、あの子供を傷つけたなんて知ったら、それこそ警部所行きになっちまいますよ」
それに、女将は言わなかったが雪也の庵にここしばらく優が毎日のように通っていたのを多くの者達が見ている。弥生が周の傷について知らないということは無いだろう。雪也や周に何かあれば、弥生は容易く沈黙を破り、この老人も一家も、すべてを潰しに来る。
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