必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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「なッ――、きさま邪魔だてする気かッ」
「もちろん。意味も分からず急に杖を振り上げられては、庇うは当然のことでは?」
 硬い杖で殴られれば痛いではすまず、下手をすれば死にいたることもあるであろうに、雪也は真っ直ぐに老人を見つめたままその場を動こうとしなかった。突然のことに周りの者達がハラハラと心配げな視線を向ける。
「さて、この子は私が助けた子ですが、お身内ですか? だとするのならば、今すぐ私と共に警部所へご同行願わねばならなくなりますが」
 臆することなく告げられたその言葉に、今にも杖を振り下ろさんとしていた老人は動きを止めた。警部所――罪を改め裁きを下すその場所に連れて行くと言う雪也の内心を見透かそうとするかのように目を細める。
「この子は酷い怪我をして打ち捨てられておりました。私が見つけ手当をしなければ、確実に死んでいたことでしょう。もしもあなたがこの子の親や主人、この子の身を預かる者であったと言うのであれば、殺人ととられてもおかしくはありますまい。そうなれば良くて流刑、悪ければ斬首といったところでしょうか。必要とあらばこの子がどこに、どのように打ち捨てられ、どんな怪我を負っていたのか、私はしかるべき場所で、しかるべき方に正直に話し、進んで証言いたしましょう」
 たとえ老人が主人で、その彼に雇われた使用人の身分であったとしても人殺しが許されるような世の中ではない。武官であったとしても、理由なき殺生はご法度。ゆえに周の主人はボロ布にくるんで山に捨てたのだ。誰にも悟られぬようにと。
 実際は、この町にいるほとんどの者が感づいているだろう。だが老人が豪商ゆえに、恐怖と己の生活のため口をつぐみ目を閉ざしているに過ぎない。そしてそんなものに、雪也が従ってやる必要はないのだ。
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