必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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 しわがれているのに強さを失わないその声に、周はビクリと身体を震わせた。思わず振り向き、大きく目を見開く。雪也の袖を掴むその手が、ガタガタと傍目にもわかるほどに震えていた。
「生きておったとは、よもや儂を謀ったのか」
 苦しみから逃れるために、偽ったのか。そう怒りに震える老人は、見間違えようもない。死に等しい苦痛と苦しみを与え、死んだと思えば森に捨てた恐怖の象徴。周がかつていた屋敷の主だった。
「こいつッッ」
 人を人とも思わない、特別周に対して執着があるわけでもないが、今まで生かしてやった労働力が己を謀り逃げたことによほど腹が立ったのだろう老人は顔を真っ赤にして持っていた杖を振り上げた。今までぶつけられてきた暴力を思い出し、周の足がすくんで動かない。ガタガタと身体を震わせることしかできず、結局逃げることなどできないのだと諦めた時、周の視界が灰色に染まった。ハッとして見れば、雪也が周を庇うように無言で前に出ている。周の姿を隠そうとするかのようなその背中は大人と比べれば随分華奢なものであるというのに、周にはとても大きく見えた。
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