必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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 彼女に礼を言って、雪也と周は再び歩き出す。花売りの女性の声がよく通ったのだろう、二人を見る視線はあまり無くならないものの、そこには好奇の色が消え、ただ穏やかなものだけがあった。
「おい雪ちゃん! 良い肉が入ったんだ。買っていかねぇか?」
「雪也さん、あの、新しい菓子が……、その……」
「おーい雪也! 玉子いらねぇか?」
 弥生が庇護している存在であることと雪也の人柄もあって、歩けば歩くほどあちこちから雪也に声がかけられる。店先に立つ彼らは弟を見るような、あるいは子供を見るような目で見つめ、若い娘や、中には若い男もまた恋をしているかのように頬を赤らめ瞳を潤ませていた。ひっきりなしに呼び止められ、買い物をすれば必ずと言って良いほどにおまけを差し出される雪也に、周はパシパシと瞬きを繰り返す。今目の前で起こっているのは何だと驚きを隠せない周に、店先の者達はカラカラと豪快に笑った。
「周は何か欲しいものある? 今日は何を食べようか」
 かけられるすべての声に会釈をすることで応えながら雪也が問いかける。そうは言われても、周は労働以外で町に出たことは無く、その時はじっくりと町を見て回ることは当然出来ずにおり、また食事も与えられる粗末なものばかりを食べていた為に、雪也の問いかけに対して答えられる何をも持たなかった。
 せっかく雪也が問いかけてくれたのだ。何かを答えたいと思うのに、何も浮かばない。どうしよう、とグルグル悩む周を、雪也は急かすことなく待っていた。その時だった。
「お前は――ッッ」
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