必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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「じゃぁ、一緒に行こう」
 生きている限り、ずっと庵に引きこもっているわけにもいかない。雪也の袖をチョコンと握りながらひとつ頷く周の姿に、一歩前進だと雪也は胸の内で〝よしッ!〟と拳を握った。
 庵を出ていつものように町を歩く。その美貌もあって雪也が庵の外へ出れば皆が視線を向けるが、今日は見知らぬ少年を連れているとあって、はて誰だろうと皆が首を傾げた。
「おや雪也ちゃん、弥生様たち以外と一緒にいるだなんて珍しいねぇ。まさか雪也ちゃんの子供ってわけじゃないだろうけど、その子はどうしたんだい?」
 花を売っている恰幅の良い女性が好奇心を隠せぬ顔で雪也に近づいた。普段でも大きくよく通るその声に、皆がよくぞ聞いてくれたとばかりに耳をそばだてているのがわかり、周はギュッと雪也の袖を強く掴むとその背に隠れ、雪也は小さく苦笑した。
「子供のようなものですよ。周と言いますが、人見知りが激しいので。また一緒に来ますから、色々と助けてあげてください」
 お願いしますと雪也が微笑みを浮かべながら小さく頭を垂れれば、花売りの女性は気を良くしたようにカラカラと笑った。
「またまた、雪也ちゃんも冗談を言うようになったんだねぇ。まぁいい。わかったよ。ほれ、周ちゃんだっけ? またおいで」
 そう言って彼女はカゴから一輪の小さな薄紅の花を周に差し出した。ソロソロと雪也の背から顔をのぞかせた周は、恐る恐る手を伸ばしその花を受け取ると、ペコリと小さく頭を垂れる。そんな幼い仕草に、女性はまたカラカラと豪快に笑った。
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