必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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「あ、起きた? あぁ、よかったね!」
 瞼を開いた瞬間、視界いっぱいに若い青年の顔が映って少年は何度も瞬きをした。その声は先程聞いたどの声でもないが、それでも優しい響きがある。やはり己は死んだのだろうか? ボンヤリとそんなことを考えていれば、優しく微笑んでいた青年が後ろへ顔を向けた。
「雪ちゃん、優さま、この子起きたよ~」
 フワフワと柔らかな声に、少年は彼が振り返った方へ視線を向ける。そこには対面するように座っている男性が二人いた。柔らかな声の主に呼ばれて、二人は同時に振り向いた。そして、長い髪をひとつに結んでいる青年が足早に駆け寄ってくる。その、見たことも無いほど美しい顔に少年は思考も何もかもが吹き飛び、青年に魅入った。
「良かった。まったく目を覚まさないから心配していた。痛み止めを使っているけど、どこか辛いところはある? 喉は乾いていない?」
 その薄紅に色づく唇から、夢現の中で聞いた美しい声が零される。あぁ、あの声の主はこの美しい人だったのかと、少年はボンヤリと思った。
 美しい声を持つ、美しい顔の人。この人は地上に降り立った神であろうか。だからこんなみすぼらしく下賤な己に優しい言葉をかけてくれるのだろうか? あるいはやはり、己は死んだのだろうか。きっとそうなのだろう。こんなに美しい人も、こんなに温かな場所も、己が生きた世にあるわけがないのだから。
 クスリと、ほんの僅かに少年は笑う。それはどこか悲しげで、皮肉っているようにも見えて、美しい人は不思議そうに首を傾げた。
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