必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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〝……、……〟
 ふわふわとした意識の中で、小さな声が聞こえた。声だけで、何を言っているのかわからない。だが徐々に意識が浮上しているのだろうか、その声が小さいのは少し離れているからで、何を言っているのかも聞き取れるようになる。
〝まったく、あんまり心配させないで。血がついた刀を見た時は卒倒するかと思ったよ〟
 声の主が怒っているのだろうことは何となく理解したが、その静かで温かな声音に少年は内心首を傾げた。
 少年が知る怒りとは、すなわち怒鳴り声と苛烈な折檻だった。しかしどれほど耳を澄ませようと毎日のように響いていた怒声も、何かを打つ鋭い音も聞こえてくることは無い。それは少年にとって異様なことであった。
〝ごめんなさい……。他に何も思い浮かばなくて〟
 知らない声が、謝っていた。おそらくは先程の静かに怒っている声の主に謝っているのだろう。なんだかとても、美しく優しい声だ。
 ゆっくり、ゆっくりと意識が浮上していく。その間も話声は聞こえてくるが、そのどれもが穏やかで温かい。もしや己は死んで、話に聞く極楽浄土にでも来たのだろうか? そんなことを思いながら、少年は瞼を震わせながら瞳をのぞかせた。
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