必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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 生きていることに安堵はするが、それでも少年の様子は異様だ。早くどうにかしなければと少年の腕を掴み背負おうとした時、ねっとりと生温かな何かが雪也の手を濡らした。何かと思い己の手を見て、雪也はヒュッッ、と息を呑む。
 真っ赤だった。怪我をした覚えもない己の掌が、皺すら見えないほどにどす黒い赤に染まっている。もしや背中に怪我をしているのだろうかと視線を彷徨わせるが、一瞬の迷いの後に雪也は少年を背負ったまま山を下りた。
 弥生のおかげで雪也は健康になり、紫呉との鍛錬で力もついた。だが、この少年を一度背から降ろしてしまっては、再び己の力だけで背負えるかもわからない。何より、背負うだけでは駄目なのだ。なんとか山を下りて、紫蘭の庵にたどり着かなければならない。ならば、体力のさほどない雪也に迷っている時間は無かった。
 せめてあまり揺らさぬよう、少年の身体に負担がかからぬようにと慎重に歩く。大男が人目を避けるようにして彼を山に運んだことからも、雪也が少年を背負っていると知られては何かと厄介だろう。下手に騒ぎになっても困ると、雪也は庵までの道を幾通りも脳内で考え、一番人目につかないであろう閑散とした道とも呼べぬ道を歩く。
 そしてようやく庵につき、少年を寝床に横たえた時には、雪也の身体はビッショリと汗に濡れていた。まだ夏という訳でもないのに額から滝のように汗がしたたり落ちる。しかしそれを袖で乱雑に拭うと、雪也は息をつく暇もなく少年の身体を横に向け、着物をはだけさせて背中を見た。そして再び、ヒュッッ、と息を呑む。
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